近年では、遺伝子検査や免疫染色が、治療の選択上必須であり、病理医は、その対応を求められるが、その科学的根拠は "FDAで承認されたから"、とか、"臨床試験でそのように決められたから" という、その程度のものが多い。受け身になった結果、ゲノム情報や臨床情報、学会発表や論文の情報をもとに、病理医が自分で考える習慣がすたれつつある。ゲノム、臨床、病理(形態、形質)の統合分類、統合的理解とはよくいわれる言葉だが、データサイエンスの独壇場になりつつある。
だが、データのもとになる病理(形態、形質)の情報は、せいぜい、組織型、分化度程度である。本当に統合的と言えるのか。病理医はもっと発信すべきである。我々、病理医にしかわからないものもある。我々は、癌のheterogeneityを熟知しており、背景病変、微小病変、早期病変、進展過程を個々の症例、多数症例で解析することができる。こうした、病理学的観察や経験の蓄積に基づいたrealityのある解析は重要であり、誇りに思っていい。そのうえで、最新の技術を取り入れ、日本独自の病理学的研究を行っていきたい。
例えば、海外のThe Cancer Genome Atras; TCGAデータなどをみても、多くは進行がんの解析であり、早期がんは少ない。早期がんの多い日本なら、全ゲノムシークエンス解析や、空間的ゲノミクス・トランスクリプトミクスなどの技術を利用しながら、早期病変、微小病変に着目した日本独自の研究を進めていけるはずである。
また、海外の人たち(特にアメリカ)は、肺癌の病理診断において、Elastica van Gieson; EVG染色を使いたがらず、WHO分類第5版にEVG染色の有用性を記載することに難色を示す方々も多くいた。EVG染色が、浸潤の同定に役立つことは日本の病理医ならば誰もが良く知っている。そこを逆手にとって、EVG染色標本を多数集めて、AIによって解析すれば、単にHE標本に基づくものよりも、より良い診断が可能なAI診断システムが構築できるかもしれない(すでに、うちの研究室でも、進められている)。
また、個々の症例を大事にし、深く追求するというのは、日本の病理医のお家芸でもある。
病理医は忙しいなかでも情報収集は重要で、いわゆるアンテナを張っておくことは大事である。新しい情報への新鮮な興味、好奇心、感受性を持ち続ければ、病理医による形態観察の重要性は決して失われない。
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