「再認記憶と潜在記憶」


寺澤 孝文、太田 信夫(筑波大・心理)


     再認記憶は,従来の記憶の区分においては,「エピソード記憶」もしくは「顕在記憶」を代表する記憶と考えられている(例えば,Squire, 1995; Tulvign, 1983; Graf & Schacter, 1985).本発表では,主に,その再認記憶の成績に,非常に長期的な,「潜在記憶」とみなせる現象が現れている実験結果を寺澤が報告し,続いて現在の潜在記憶研究との関わりについて太田が解説を加える.
 再認記憶に関しては,記憶区分の研究とはまた別に,従来より,数多くの研究者が研究を進めてきた.その中で数年来問題となっている現象に,mirror effectという現象がある(e.g., Glanzer & Adams, 1990).それは,本や雑誌によく出てくる単語(高頻度語)と出てこない単語(低頻度語)を再認実験で用いると,ヒット率については低頻度語の方が高く,虚再認率については高頻度語の方が高くなるという非常に頑健な現象である.寺澤は独自の再認理論(脚注参照)に基づき,この現象を,過去のその単語に関する経験(先行経験)が再認判断に影響を及ぼした結果と解釈している.これは裏を返せば,再認成績にかなり以前の経験の効果が現れることを予想させるものである.この解釈に基づき「間接再認手続き」を考案し,また理論的に条件を整え,ごくわずかな学習経験の効果を長期のインターバルをはさんで再認成績に検出することに成功している(e.g., 寺澤・太田, 1993).手続き,条件設定など詳細はここでは省くが,それ以降明らかとなった代表的な現象を以下に列挙する. References
Glanzer, M., & Adams, J. K.( 1990 )Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and
Cognition, 16, 5-16.
Graf, P., & Schacter, D. L. (1985 )Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and
Cognition, 11, 501-518.
Squire, L.R.( 1995) Frontiers in cognitive neuroscience, MIT Press, 500-515.
寺澤(1994a) 再認メカニズムに存在する抑制的プロセス、 筑波大学博士論文.
寺澤(1994b) 日心発表論文集, 815.  寺澤(1995) 日心発表論文集.
寺澤・太田, (1993) 心理学研究, 64, 343-450.
Terasawa, Ayabe-Kanamura & Saito (1995 ) Proceedings of Annual Meeting of Association for
Chemoreception Sciences, 190.
Tulving, E.( 1983) Elements of episodic memory. Oxford University Press.
(脚注)寺澤(1994a)は独自の記憶表象理論に基づき,再認判断の瞬間になされる処理メカニズムを「活性化相互抑制理論」として理論化している.要点は以下のようにまとめられる.
 1)記憶表象は莫大なパターン情報の連続的な集積によって形成されている.
 2)一般に記憶として引き出される情報は,莫大なパターン情報から生成された情報であって,蓄えられている情報そのものではない.
 3)再認メカニズムには,判断時に与えられる情報と記憶表象とのマッチング,およびそれによって賦活される情報源間の相互抑制的メカニズムが存  在する.

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