「コミュニケーション障害児の言語治療─吃音、言語発達遅滞、自閉的傾向児へのアプローチ─」


早坂 菊子(筑波大・心身障害学系)



 言語治療学(Speech Pathology)の扱う範囲は、高次神経障害系(失語症、高次神経機能障害)、運動障害系(音声障害、運動性構音障害、脳性麻痺、器質性構音障害、えんげ障害)、発達障害系(言語発達遅滞、機能性構音障害、吃音)、聴覚障害系(聴覚障害)である。言語発達遅滞の中には、精神発達遅滞によるもの、自閉症によるもの、環境によるもの等いくつかに分類されている。今回はこれらの中で、吃音と自閉症(自閉的傾向児)へのアプローチについて、紹介する。
吃音は正常な流暢性を支える、言語運動、情緒システムに過大な負担がかかった時に生じる病理的な非流暢性(Riley,G.D.)と定義できる。近年、病理的な非流暢性を生じる脳的基盤を脆弱なスピーチモーターコントロールシステムに求める研究が盛んに行われている。Websterによると吃音は脆弱な補足運動野(SMA)に、右半球の活動が干渉する結果生じるコア症状である(1993)。右半球の不安定な活動は脳梁を通じてSMAとリンクするが、不安定な活動は、否定的感情、プロソディーに対する過度の注意、高い注意力を要求される行為、スピーチの情緒的特徴、抑鬱などが関係すると考えられている。我々は幼児期、学童期の治療として感情開放を促進し、吃音への否定的感情を抑制し、子供のキャパシティに合った環境上の要求の調節を中心におこなって成果をあげている。追跡調査の結果、不適切な環境の維持が吃音の改善を阻止していることがわかった(Hayasaka,1993)。また環境の圧力が子供に与えるストレスの研究では、子供の側の脆弱性が認められた(Hayasaka,1995)。
自閉症は社会的事象に埋め込まれている感情的意味をくみとる知覚過程に障害の鍵がひそんでいると言われている(Hobson,1987)。また、当面している対象への注意を共有することの中に、社会的障害の中核があるとも言われている(Mundy,1985)。このような為に自閉症児は、目的的なコミュニケーション(通常9カ月前後に始まる)を達成するための手段を獲得することが著しく困難である。我々は、目的的なコミュニケーションの確立のために、母親−乳児の間で取り交わされるゲーム遊び「イナイイナイバー」とか「オツムテンテン」などの開始と受け手のはっきりした、遊びの要素のある繰り返しの活動(フォーマット、Bruner,1983)を通して、対象物への共同注意を達成させることを目的とした治療活動を行っている。

Kikuko Hayasaka (1993) Factors related to persistence and improvement of stuttering in children. Scand J Log Phon 18 : 65-72, 1993Kikuko Hayasaka (1995) Factors related to the onset of stuttering in preschool children.Bruner, J.S. (1983) Child's talk. Learning to use language. Oxford Univ.Press.

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