「脳卒中による不随意運動の脳深部刺激療法」


片山 容一 (日本大学・医学部・脳神経外科)


 脳卒中を起こすと種々の神経機能障害を生じ、その結果として日常の活動に様々な支障をきたす。重傷の場合には死亡するか植物状態になる。現在まで様々な努力と工夫が行われてきたにもかかわらず、脳損傷によって失われた神経機能を取り戻す効果的な方法はないといわねばならない。このため脳卒中による神経機能障害の治療と介護は、社会に大きな経済的負担をもたらしている。
 大まかに言って、脳卒中による脳損傷の程度がひどいほど日常の活動に及ぼす影響も大きい。しかし脳損傷の部位によっては、脳損傷の程度が軽くても日常の活動に大きな支障をもたらすことがあることを忘れてはならない。脳損傷の程度が軽いのに、日常の活動には大きな制約のある患者も多数存在する。脳損傷の程度がひどい場合には、これによる神経機能障害を改善させることは容易でないのは当然である。しかし脳損傷の程度が軽い場合には、これによる神経機能障害さえ軽減することができれば、日常の活動を大幅に改善させることができるはずである。その中には、運動麻痺や失語症などの他に中枢性疼痛や不随意運動なども含まれる。
 私どもは、脳深部刺激療法あるいは脳細胞移植療法などの技術を導入することによって、神経機能障害を軽減することを目的とした脳神経外科手術の研究を行ってきた。脳深部刺激療法は、脳内に柔らかい多連電極を埋め込んでおき、必要に応じて弱い電流を流して人工的に一定の神経回路を駆動するものである。脳細胞移植療法も同じような手技を用いて、刺激の代わりに脳細胞を直接移植するか半透膜カプセルに封入したものを留置して、新たな神経機能を付加しようとするものである。このような機能再建を目的とした脳神経外科手術の多くはまだ実験段階のものが大部分であるが、現実に成果を挙げつつあるものもある。そのひとつが中枢性疼痛や不随意運動に対する脳深部刺激療法である。その実例として、振戦、バリスムス、パーキンソン症候群、視床出血後ヒョレア、純粋無動症などの治療効果をビデオの供覧を含めて紹介したい。
 このような成果は、脳深部刺激療法によって脳内の神経回路の機能をかなり改変できることを意味している。この現象をうまく利用すれば、患者の日常の活動を改善できるのみならず、社会への経済的負担も軽減できる可能性がある。脳卒中による神経機能障害という大問題に新たな展開をもたらす方法であると考える。

参考文献
  1. Katayama, Y., Tsubokawa, T. and Yamamoto, T.: Chronic motor cortex stimulation for central deafferentation pain: experoence with bulbar pain secondary to Wallenberg syndrome. Streotactic and Functional Neurosurgery, 62: 295-299 (1994).
  2. Tsubokawa, T., Katayama, Y. and Yamamoto, T.: Control of persistent hemiballisumus by chronic thalamic stimulation. Journal of Neurosurgery, 82: 501-505 (1995).

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