「精神障害動物モデルに対する画像解析法による検討」


鈴木 利人 (筑波大・臨床医学・精神医学)


 精神分裂病は、幻覚や妄想のほか無為、自閉、感覚鈍麻などの精神症状を呈する予後不良の内因性精神障害である。本症の生物学的背景は従来から精神異常惹起物質を中-長期に連用された動物の脳内神経伝達物質の変化を調べ検討され、ドーパミン神経系の機能異常が幻覚や妄想の出現に深く関与していることが明らかとなった(ドーパミン仮説)。しかし、この仮説に基づき開発された抗精神病薬は無為や自閉を呈する分裂病患者には無効なことが多く、時に薬剤抵抗性の幻覚妄想状態も観察される。このようなドーパミン仮説に対する臨床上生じた矛盾は、精神障害の動物モデルがいわゆる相似モデルであることや分裂病の異種性を考慮した動物モデルの開発が困難であることに強く影響されていると考えられる。
 我々は、従来より様々な精神異常惹起物質(Methamphetamine, Cocaine, Phencyclidine, Pentobarbital )を用いて精神分裂病及び薬物依存の動物モデルを作成し、ドーパミン神経系以外の神経伝達物質の中でドーパミン神経系に密接に関与している Cholecystokinin神経系、 NMDA/phencyclidine神経系、GABA/benzodiazepine神経系等の受容体の変化に注目してきた。異常行動が観察されたラットの脳におけるこれらの変化をAutoradiography法や Phosphor screen imaging 法などの画像解析法を用いて検討し、その結果前頭葉を中心とする大脳皮質において上記の様々な受容体の変化が観察された。本セミナーでは、以上の精神異常惹起物質を連日投与した動物実験における行動変化や生化学的変化を紹介し、分裂病や薬物依存における生物学的研究の今後の問題点などを考察する。同時に研究上の主たる手技であるAutoradiography法やPhosphor screen imaging 法などの画像解析法が、脳内の詳細な受容体分布とその異常を検討する際に有益である一方、様々な問題点も有していることから、これらの問題点も指摘し、画像解析法の利点や限界についても合わせて検討する。


References

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