「先端脳」とは


1. 先端脳発足にあたって

領域代表者 井 原 康 夫 (東京大学大学院医学系研究科)

 「脳科学の先端的研究」(略称「先端脳」)はミレニアム予算でつくられたこれまでになく規模の大きな班で、次のようにニューロサイエンスのほとんどの分野を取り込んでおります。「来たるべき21世紀の人類が安心して暮らせる豊かな長寿社会を実現することを見据えて、戦略的に目標を立てた研究を推進する」という観点から「脳の老化の問題と大脳高次機能の問題とを集中的に扱う研究グループを結成」するとして設けられたものです。
 計画班は以下の7班から出来ております。すなわち、

■研究項目A 脳の発生・発達・老化の研究(項目代表者: 井原康夫)
 A01 脳の発生における分子生物学的研究(代表者 桝 正幸;30名)
 A02 脳の発達生理機能の研究(代表者 津本忠治;20名)
 A03 脳の老化および病態に関する研究(代表者 井原康夫;35名)
 A04 脳細胞の変性に関する研究(代表者 辻 省次;31名)
■研究項目B 記憶・学習・思考の研究(項目代表者: 彦坂興秀)
 B01 記憶・学習・思考の分子生物学的研究(代表者 三品昌美;15名)
 B02 システム回路形成およびその機能の研究(代表者 彦坂興秀;22名)
 B03 モデル脳による記憶・学習・思考の研究(代表者 塚田 稔;13名)

 予算額からすればこれまでの重点研究、または特定領域研究の約5倍の規模になります。計画班員の方々の中には特定領域研究で活躍されてきた先生方も加わっており、「先端脳」は、その性格としてはこれまでの特定領域研究の延長上にあるという印象が皆様の間にあるのではないかと思います。これまでのように、この班に所属することによって一定の研究費を得て、それを他の(各自の主とした)研究分野に回すということを考えられている人々も多いかと思います。しかしこれは大きな誤解です。ミレニアムの予算でつくられた「先端脳」はそうであってはならないということを強調しておきたいと思います。「先端脳」は目標達成型の班研究である点を充分に理解していただきたいと思います。これまでの班と異なり、ある分野の研究の層を厚くするということでかなりの目的が達成されたとするのではなく、国民に還元できる具体的な成果が要求されていることはいくら強調してもし足りません。そのためには、各班で目標を設定していただき(各班で討議が必要な場合もあるでしょう)、それを達成するにはどうしたらよいか。すなわち、班員の選別、共同研究の体制、インフラの体制をどう整えるのか考えなければなりません。また設定された目標に対して、毎年どれだけの進歩があったかを公開していく必要があります。
 実際には、この「先端脳」はとりあえず発足したという感じがあります。しかし、以上のことを考慮に入れ、今から来年以降の効率のよい班体制がどうあるべきか考えていく必要があります。班員の皆様には、各班の目標設定がどのようになっているかこのNews Letterで充分にご理解いただき、まずその目標に関して、また研究体制の整備に関しても、ご意見があれば各班長に申し出ていただくことが重要かと思います。現在の班体制に関しては必ずしもこのようなことを前提につくられたものではありませんので、2年度目からは大幅な変更があり得る点をどうぞご理解ください。
 以上、この「先端脳」が目標達成型というこれまでにない役割を負わせられていることを強調いたしました。これが実現できるかどうかは各班における皆様方の有機的な研究の進め方に負うところが大であります。どうぞよろしくお願い申し上げます。