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第279回つくばブレインサイエンス・セミナー「意思決定を支えるドーパミン神経回路機構」

第279回つくばブレインサイエンス・セミナーを対面で開催します。奮ってご参加ください。

1月23日(火)18時開始予定
@筑波大学・医学エリア・健康医科学イノベーション棟8階講堂

意思決定を支えるドーパミン神経回路機構
松本正幸(筑波大学医学医療系)

中脳に分布するドーパミンニューロンは“報酬系”の中枢として注目されている。これらのニューロンは報酬によって活性化し、報酬を得るための学習やモチベーションの調節に重要な役割を果たすことが多くの研究によって報告されてきた。一方、パーキンソン病をはじめとするドーパミン神経系に異常が見られる精神・神経疾患では、運動機能障害や認知機能障害など、報酬機能とは直接関係ない症状も多く見られる。我々の研究グループでは、このように多様な機能障害が生じるメカニズムを理解することを目的に、様々な認知行動課題を実行中のマカクザルのドーパミンニューロンの神経活動を記録・操作して、ドーパミンニューロンがどのようなシグナルを伝達しているのか、また、これらのシグナルとサルの行動との間に因果関係があるのかを解析してきた。今回のセミナーでは、特に“意思決定”に関連したドーパミンニューロンの働きを報告する。
意思決定は、選択肢の認知、選択肢の価値評価、選ぶべき選択肢の決定、選択した結果の評価など、複数のサブプロセスから構成される。ドーパミンニューロンがそれぞれのサブプロセスにおいてどのような役割を担っているのかを明らかにするため、意思決定課題遂行中のマカクザルのドーパミンニューロンから神経活動を記録した。この課題では、一つの選択肢が提示され、サルはこの選択肢を選ぶかどうかを制限時間内に決定する。選択肢が提示された直後のドーパミンニューロン活動は選択肢の価値を反映していたが、サルが実際に選択する直前になると、選択肢を選ぶかどうかを反映する神経活動に変化していた(Yun et al. & Matsumoto, Sci Adv, 2020)。このようなドーパミンニューロン活動の時間変化は、選択肢の価値を評価し、その評価を基に選ぶかどうかを決定する意思決定のプロセスに一致する。意思決定の中枢として知られる眼窩前頭皮質からも神経活動を記録して、同様の神経活動時間変化を観察したが、ドーパミンニューロン活動の時間変化が先行しており、ドーパミンニューロンがいち早くサルの選択を決定していることが示唆された。そして、共同研究者と開発したマカクザルに適用可能な光遺伝学技術(Inoue, Takada & Matsumoto, Nat Commun, 2015)を用いて、観察したドーパミンニューロンの神経活動とサルの意思決定の間に因果関係があることを確認した(Nejime et al. & Matsumoto, in preparation)。その一方で、「この選択肢ではなく別の選択肢を選べばよかった」というように、選択した後に実際の選択とは異なる選択をした場合のことを想定する“反実仮想(counterfactual thinking)”と呼ばれる心理事象に関する神経活動が眼窩前頭皮質では見られたが、ドーパミンニューロンでは見られなかった(Yun et al. & Matsumoto, Sci Adv, 2023)。眼窩前頭皮質とドーパミンニューロンは皮質基底核回路の重要な構成要素であるが、役割を分担して意思決定の実現に寄与すると推測される。本セミナーでは、我々が得たデータを基に、意思決定を支えるドーパミン神経回路機構について議論したい。

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