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がん薬物療法

対象疾患

一言で消化器がんといっても食道、胃、大腸、肝、胆、膵など多数の臓器に発生します。その臓器の細胞ががん化するタイプもあれば、消化管間質性腫瘍(Gastrointestinal Stromal Tumor: GIST)や神経内分泌腫瘍(Neuroendocrine Neoplasm: NEN)といった臓器に関係なく発生するタイプもあります。いずれのタイプに対しても薬物療法(抗がん剤治療)は一定の効果が期待され、がん治療のなかでも重要な役目を担っている治療のひとつです。当科ではがん薬物療法にも力を入れており、全ての消化器がんについて積極的に行っています。

食道がん

胃がん

小腸がん

大腸(結腸・直腸)がん

虫垂がん

肛門管がん

肝細胞がん

胆道(肝内外胆管・胆嚢がん・乳頭部)がん

膵がん

消化管間質性腫瘍(GIST)

神経内分泌腫瘍(NEN)

その他の腹腔内腫瘍

我々は、最新の科学的根拠に基づいて患者さんに最適な治療を提供しています。がん薬物療法は元気で心臓・肺・肝臓・腎臓といった主要な臓器に大きな問題のない方に効果を発揮するものですが、患者さんによっては、がんの進行による体調不良や、併存疾患を患っていたりと一様ではありません。我々は、患者さんの体や病気の状態などに合わせ、その患者さんにとって一番有用である治療法を提供できるよう心がけています。

がん薬物療法の役目

がん薬物療法の役目としては、大きく3つあります。1つめは、治癒切除可能な進行がんの術後再発を抑える効果です。治療のタイミングは消化器がんの種類によって、手術前や手術後であったり、あるいは手術前後であったりします。治療期間は数ヶ月〜1年以内と期限が定まっています。

2つめは、切除可能であっても様々な理由で手術困難であったり、手術を希望しない場合に、代替手段として行うことです。手術と比べると治療成績は劣りますが、放射線治療と組み合わせた化学放射線療法として根治を目指して行うことがあります。

3つめは、遠隔転移などで治癒切除が困難な進行がん、あるいは手術後に再発をきたした患者さんへの症状緩和効果や延命効果です。治療効果がでてくるとがんによる症状が和らぐ効果が期待できます。あるいは、がんの悪化を抑えることによってがんによる症状の出現を抑えることができるため、生活の質を保つことができます。治療期間は、効果がある限り継続していくことが多いですが、無理をすると副作用などで体の負担が大きくなることもあります。そのため減量や治療の延期などを行いつつ、患者さんと相談しながら無理のない範囲で続けていきます。

再発抑制効果:治癒切除可能な進行がん

根治効果:治癒切除可能ながんのうち、切除困難/希望なし

症状緩和効果・延命効果:遠隔転移などで治癒切除が困難な進行がん

がん薬物療法には大きく分けて殺細胞傷害性薬、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害剤の3種類の薬剤があります。殺細胞傷害性薬がメインの薬剤として用いられますが、患者さんの年齢や全身状態、臓器機能、がんの性質、がんの状態、あるいは進行の程度によって単剤で治療したり、それらを組み合わせ併用療法として治療したりします。 がんの状態によっては放射線治療や手術と組み合わせた集学的治療の一つとして薬物療法を行うことが最善の治療になることもあります。そのため、放射線腫瘍科や消化器外科とは定期的にカンファレンスを行い、密に連携しながら治療を行っています。

均てん化を目指した教育

標準的ながん薬物治療であれば、どの施設でも同様に行えるようにしていくことも我々のミッションの一つです。当院で研修する若手医師にはカンファレンスを通じて標準的な治療法の選択や、治療方針の決定について学べるようにしています。

他院で従事している先生方には講演会を通じて学べる機会を作ったり、他施設にて、がん薬物治療のカンファレンスを積極的に行っています。

新治療法開発への取り組み

以前に比べるとがん薬物療法の治療成績は飛躍的に向上していますが、まだまだ満足できるものではなく、もっと良い治療を患者さんに届けたいと考えています。我々は、より有用な治療法を開発すべく、西日本がん研究機構(WJOG)、日本臨床腫瘍グループ(JCOG)などの臨床試験グループに参加して新たな治療法の確立を目指した臨床試験に参加したり、新薬の開発治験へも積極的に参加したりして最先端の治療も提供出来るようにしています。参加している試験については、「当科で行っている臨床試験」をご覧下さい。

代表的な消化器がんに対する薬物療法

表は右にスクロールしてご覧になれます。

 再発抑制効果目的根治効果目的
(化学放射線療法)
症状緩和・延命効果目的

食道がん

ステージII/III:術前後


(一部、放射線併用)

胃がん

ステージII/III:術後

結腸がん

ステージIIの一部/III:術後

直腸がん

ステージII/III:術前
(放射線と併用)と術後

膵がん

ステージI〜III:術(前)後
(放射線と併用)と術後


(一部、放射線併用)

胆道がん

ステージI〜III:術後


(一部、放射線併用)

食道がん

薬物療法は病期(ステージ)I〜IVに適応があります。
ステージI
早期がんであっても内視鏡で切除困難あるいは切除できたとしてもリンパ節転移のリスクがあると判断された場合や手術拒否あるいは適応がない場合に、殺細胞傷害性薬と放射線との組み合わせ(化学放射線療法と言います)で行います。
ステージII/III
手術の適応となる患者さんに対して手術前に殺細胞傷害性薬による薬物療法を行います。手術のみや手術の後に薬物療法を行うより治療成績が優れていることが分かっています。さらに術後に免疫チェックポイント阻害剤を用いる場合があります。手術を希望しない、あるいは手術は困難な場合、化学放射線療法を行います。術前化学療法+手術と比べると若干治療成績は劣りますが、体の負担が大きい手術を受けずに完治を目指します。
ステージIV
できる限り病気の進行を抑える目的で殺細胞傷害性薬や免疫チェックポイント阻害剤による薬物療法を行います。放射線治療が良く効くことも分かっていますので照射可能な範囲に病巣が留まっているなどの場合は化学放射線療法として治療することもあります。

胃がん

薬物療法はステージII〜IVに適応があります。
ステージII/III
手術後に殺細胞傷害性薬による補助化学療法を行うことで手術のみより治療成績が優れていることが分かっています。
ステージIV
できる限り病気の進行を抑える目的で殺細胞傷害性薬をメインに分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤も用いながら薬物療法を行います。がんを増殖させる刺激因子を受けるHER2(ハーツー)受容体という受け皿ががん細胞の表面にたくさん発現しているタイプ(HER2陽性)と、発現していないタイプ(HER2陰性)の胃がんがあることが分かっています。HER2陽性胃がんにはHER2を抑える分子標的薬を併用することが効果的であるため、治療開始前にあらかじめ手術や生検で得られた腫瘍検体を用いてHER2を調べておく必要があります。HER2陰性の場合は免疫チェックポイント阻害剤との併用療法が効果的であり、なかでも腫瘍または腫瘍周囲に免疫に関係する細胞が多いタイプにはさらに効果的であることが分かっています。そのため、免疫に関係する細胞の割合をスコア化したCPS (combined positive score)をHER2検査と同様に腫瘍検体を用いて事前に確認します。

大腸がん

薬物療法はステージIIの一部〜IVに適応があります。
ステージIIの一部/III
ステージIIIの結腸がん手術後に殺細胞傷害性薬を用いた補助化学療法を行うことで手術のみより治療成績が優れていることが分かっています。治療期間は6ヵ月間です。ステージIIの場合、化学療法は不要とされていますが、なかには再発リスクが高い患者さんがいることが分かっているため、一部の患者さんはステージIIIと同様に補助化学療法の適応があります。補助化学療法の期間が長くなると副作用も強くなってくることがあります。治療期間が3ヵ月間でも6ヵ月間と遜色ない治療成績が得られることがわかっていることから3ヵ月間の化学療法も許容されています。
ステージIV
できる限り病気の進行を抑える目的で殺細胞傷害性薬をメインに分子標的薬も用いながら薬物療法を行いますが、縮小すれば手術で取り切れると判断された場合は、術前化学療法として行われることがあります。がんの遺伝子であるRAS(ラス)遺伝子やBRAF(ビーラフ)V600E遺伝子の変異の有無によって有効性が異なる分子標的薬があることから、腫瘍検体を用いて事前に調べておく必要があります。RAS遺伝子とBRAFV600E遺伝子に変異がないタイプ(野生型)は大腸がんの約50%に認められます。そのタイプにはがんを増殖させる刺激因子を受ける受け皿である上皮成長因子受容体(EGFR:イージーエフアール)を抑える分子標的薬が効果を発揮します。BRAFV600E遺伝子に変異があるタイプは大腸がんの8%前後に存在することが分かっており、大腸がんの患者さん全般に用いる殺細胞傷害性薬の効果が乏しい場合、BRAFV600E遺伝子に変異があるタイプにのみ効果的な分子標的薬が選択肢となります。マイクロサテライト不安定性(Microsatellite instability: MSI)を有する(MSI-Highと言います)タイプは大腸がんの3〜5%に存在することが分かっており、免疫チェックポイント阻害剤の効果が期待できますので、このMSI検査についても腫瘍検体を用いて事前に調べておく必要があります。

膵がん

薬物療法はステージI〜IVに適応があります。
ステージI〜III
術後に殺細胞傷害性薬による補助化学療法を6ヵ月間行います。再発リスクが高い場合は、殺細胞傷害性薬による術前化学療法、あるいは化学放射線療法を行うこともあります。
ステージIV
膵臓周囲にのみ限局している場合は、殺細胞傷害性薬同士の併用、あるいは単剤と放射線療法を行います。他臓器に転移を認める場合は、殺細胞傷害性薬による薬物療法を行います。一部の膵がんの患者さんにはBRCA(ビーアールシーエー)遺伝子に変異があることが分かっており、プラチナ系薬剤といわれる殺細胞傷害性薬が効きやすく、長期間効果が持続する場合は、BRCA遺伝子変異のタイプに効果を発揮する分子標的薬に切り替える治療戦略も有効です。

胆道がん

薬物療法はステージI〜IVに適応があります。
ステージI〜III
術後に殺細胞傷害性薬による補助化学療法を6ヵ月間行います。
ステージIV
胆道周囲にのみ限局している場合は、殺細胞傷害性薬同士の併用、あるいは単剤と放射線療法を行います。他臓器に転移を認める場合は、殺細胞傷害性薬による薬物療法を行います。一部の胆道がんの患者さんにはFGFR(エフジーエフアール)遺伝子に異常があることが分かっており、その患者さんに対しては分子標的薬の効果が期待できます。

肝細胞がん

手術やカテーテル治療である肝動脈塞栓(化学)療法、ラジオ波焼却術といった局所治療でコントロールが困難であったり、肝臓以外に転移のある場合に薬物療法の適応があります。分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤で治療を行います。

特殊なタイプ

GIST(消化管間質性腫瘍)

完全切除後
発生した臓器や、腫瘍検体を確認して腫瘍細胞の増殖能高いと判断された場合に分子標的薬による治療を3年間行います。
完全切除困難
分子標的薬による治療を行います。

NEN(神経内分泌腫瘍)

進行がゆっくりなタイプの神経内分泌腫瘍(Neuroendocrine tumor: NET)と、進行が早いことが多い神経内分泌がん(Neuroendocrine carcinoma: NEC)の2つのタイプがあり、それぞれで薬物治療が異なります。NETは完全切除が困難な場合に適応があり、NECは完全切除後にも適応があります。
NET
発生した臓器にかかわらず、内分泌ホルモンの分泌を抑制するアナログ製剤や分子標的薬による治療を行い、ときに殺細胞傷害性薬を使います。ソマトスタチン受容体という受け皿を多く発現している場合、その受容体にくっつきやすく設計されたペプチドといわれる物質に放射性物質を結合させた薬剤による治療法(放射性核種標識ペプチド療法 Peptide receptor radionuclide therapy: PRRT)があります。県内では当院だけが可能な治療法です。
NEC
発生した臓器にかかわらず、殺細胞傷害性薬による治療を行います。

肛門管扁平上皮がん

殺細胞傷害性薬による化学放射線療法は、根治が得られる可能性が高く、手術より優先されます。

MSI-High・TMB-Highの特徴を持つ全てのがん

マイクロサテライト不安定性(Microsatellite instability: MSI)や高い腫瘍遺伝子変異量(Tumor mutation burden: TMB)を有するがん(それぞれMSI-High、TMB-Highと言います)で、免疫チェックポイント阻害剤の効果が期待されます。

NTRK(エヌトラック)融合遺伝子を有する全てのがん

NTRK遺伝子が他の遺伝子と結合してひとつの遺伝子のようにふるまっている変異をNTRK融合遺伝子といいますが、その遺伝子変異を有するタイプに効果的な分子標的薬による治療を行います。

がん遺伝子パネル検査

網羅的ながん遺伝子解析により、がん細胞に特異的な遺伝子異常をみつかった場合、その遺伝子異常に適した治療薬が使えることがあります。詳しくは筑波大学附属病院 総合がん診療センターの「がんゲノム医療について」をご参照下さい。
現在、消化器がんのなかで保険診療として薬物治療が可能な遺伝子異常と治療薬は以下となります。

表は右にスクロールしてご覧になれます。

遺伝子異常がん腫保険適応のある薬物治療

MSI-High(マイクロサテライト不安定性を有する)

大腸がん

1次治療
ペムブロリズマブ(キイトルーダ®)

2次治療以降
ニボルマブ(オプジーボ®)
ニボルマブ+イピリムマブ(ヤーボイ®)

全がん

2次治療以降
ペムブロリズマブ(キイトルーダ®)

TMB-High(高い腫瘍遺伝子変異量)

全がん

ペムブロリズマブ(キイトルーダ®)

FGFR融合遺伝子

胆道がん

ペニガチニブ(ペマジ-ル®)

NTRK融合遺伝子

全がん

エヌトレクチニブ(ロズリートレク®)
ラロトレクチニブ(ヴァイトラックビ®)

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