RESEARCH

医学系における研究

臨床医学域

CLINICAL
MEDICINE

臨床医学域

臨床医学分野では、多数の教員がいくつもの研究グループを構成し、さまざまな疾患の原因・発症機序・病態の解明と、新しいより優れた診断・治療・予防法の確立をめざして研究を行っています。

最先端の臨床医学研究

臨床医学分野においては、近年飛躍的な進歩を遂げている分野の技術を取り入れ先進的な臨床研究を進めています。分子病態解析、遺伝子解析などの手法は、すでに研究のみならず日常の検査としても広く取り入れられ、各個人の病状に応じた最適な治療(テーラーメード医療)を提供することに貢献しています。

また、3D −コンピューター断層撮影(CT)などの新画像技術、カテーテル・アブレーションによる不整脈治療、内視鏡・ロボット支援手術、がんゲノム医療など、ハイテク機器を用いた研究成果は、すでに臨床応用されています。

また、がん、エイズ、遺伝性疾患、自己免疫疾患などの難治性疾患にも積極的に取り組み、臓器移植、細胞療法、遺伝子治療、再生医療などの分野で新しい治療法の開発をしています。また、筑波大学が開発された当初から力を入れている陽子線治療や、近年開発された脳腫瘍に対する中性子捕捉療法は全世界のトップリーダーとして牽引しています。がん治療法の開発においては一定の治療計画に基づいた治療成績を継続的に集積し、データベースを構築していくことが極めて重要です。このような信頼性の高いデータベースを構築するために、附属病院ではいくつもの先進的な質の高い臨床試験が実施され、新しい治療法の開発に寄与しています。附属病院は2019年9月にがんゲノム医療拠点病院に指定され、がんゲノム外来を開設しました。ここでは病理組織からDNAを抽出し、遺伝子パネル検査、専門家会議(エキスパートパネル)を経て患者さんに適切な治療法の選択に役立てるがんゲノム医療医療を実践するとともに、国立がん研究センターのデータベース構築に協力しています。

がん以外にも、動脈硬化、糖尿病、高脂血症、高血圧 , メタボリック・シンドロームなど様々な生活習慣病に対して、脂質に関する新しい概念に基づいて動物モデルを作成、病態メカニズムを解明し、予防法・治療法に繋げるオリジナリティの高い研究に力を入れています。

筑波大学附属病院のエキスパートパネルの様子。医師だけでなく病理を扱う臨床検査技師、看護師、薬剤師、遺伝子カウンセラーなど多職種のメンバーが参加している。2020年4月からWeb会議になっている。

図:生活習慣病の新しい概念 脂質の量と質

独自の脂質代謝研究から肥満、糖尿病、高脂血症、動脈硬化、認知症のメカニズム解明と新しい治療法の開発を目指しています。臓器や細胞内の脂質の量を調整する遺伝子の転写因子、脂肪酸の質を制御する酵素、栄養状態を感知するセンサーを発見しました。これら因子のエネルギー代謝の制御メカニズムと生活習慣病との関連を解明し、新しい治療法に繋げます。新しいバイオロジーが潜んでいます。

内分泌代謝・糖尿病内科

世界へ──つくばの研究ネットワーク

開学以来、医局講座制を廃止しているため、歴史的に学問分野にとらわれない多彩な共同研究が行われています。基礎医学や社会医学との共同研究はもちろん、体育科学と融合したスポーツ医学研究は、医学と体育の双方を持つ国内唯一の本学ならではのものです。

また、研究学園都市つくばには医学以外の研究施設が多く、グローバリゼーションの流れの中で、宇宙医学、環境医学、国際医学協力など、広い視野にたつ学際的研究が展開されています。

高度先進医療の場──筑波大学附属病院

臨床医学分野における活発な研究活動は、附属病院における高度な診療に反映されています。研究を支える多数の教員は、学生や研修医の教育にあたるとともに、地域医療への貢献および高度先進医療の推進をめざして、診療にも従事しています。

また、「つくば臨床医学研究開発機構(T-CReDO)」が中心となり、筑波大学および周辺研究施設で得られた研究成果を、より迅速かつ効率的に臨床の場に還元する橋渡し研究(トランスレーショナル・リサーチ)に取り組んでいます。

つくば臨床医学研究開発機構(T-CReDO)

図:筑波大学附属病院におけるがんゲノム医療の流れ

図:画像による皮膚腫瘍 AI 診断システム

人工知能(AI)の分野はこの数年で劇的な進歩を遂げています。皮膚科グループは 2016年からこの CNN を用いた皮膚腫瘍の AI 診断システムの研究を行っています。現在はこのAI 判定器を使ったアプリ開発を行っており、社会実装に向けて研究を行っています。

保管されている皮膚腫瘍の画像約6,500枚を用いて、図にあるようにCNNを用いたAIを学習させて判定器を作りました。CNNは従来の機械学習と違い、途中でどのようなプロセスを経ているかが分からない(ブラックボックス)ことが特徴ではありますが、画像のどの部分に着目しているかを可視化する技術も最近出てきています(図中のGrandCamやt-SNEなど)。この判定器の性能を評価するため、皮膚腫瘍の画像を分類するテストを医師とAIでその正答率を比較したところ、AIの方が皮膚科専門医より正確に判定できることが分かりました(図下・左)。

社会医学は、主として社会や人間の集団を対象とする研究分野です。

疾病の予防と健康管理、公害や環境問題、保健医療政策など、さまざまなテーマを取りあげ、研究成果を社会に還元して人類全体の健康に貢献しています。

社会医学の研究が充実していることも筑波大学の特徴の一つです。

看護学の研究対象は看護の専門技術や、胎児を含めたこどもから高齢者まであらゆる人々が抱える健康問題まで幅広いことが特徴です。高齢化社会、医療の高度化、国際化社会が進む現在、 看護学における研究テーマは多岐にわたっており、研究成果が臨床現場で応用され、 人々の健康維持・増進のために活かされています。

ヘルスサービスリサーチ

医療(保健・看護・福祉を含む)サービスの質を、Structure(or Input)、Process、Outcome の視点から、包括的・科学的に評価・分析し、医療分野だけでなく、政策学、法学、経済学、社会学、人類学等の学際的視点から考察し、その成果を国内外に発信しています。医療から介護・福祉を一連のサービスとしてとらえ、実証データに基づく研究成果を通じて、生活と調和した質の高いサービス提供の実現を促進することを目的としています。

近年では医療と介護のビッグデータを用いることによって、介護負担や緩和ケア医療、地域医療、医療費・介護費、医療・介護サービスの評価などについての様々な研究成果を報告しています。また、つくば市と医療・介護分野でのデータ分析に関する覚書を締結しており、筑波大学でのデータ分析による研究成果をつくば市の効率的な医療と介護政策に活かす取り組みも行っています。

写真上:Asia-Pacific Economic Cooperationで、地球規模の課題である高齢化社会の在り方について、日本の介護保険に関する研究成果 (Lancet 2011 等)をもとに各国の代表者と議論

健康情報の解析・評価

地域での実践的なフィールドワークとして、環境や生活様式の変化に伴う生体反応や、疾病構造の変化をいち早くとらえ、それを予防する研究があげられます。統計学や情報科学(Information Technology)を用いた解析や評価を行い、疾病の原因探究や疾病予防・健康管理・健康増進に役立てています。

国際共同研究-高齢化社会に向けて

日本とは環境や生活様式が異なる国々とのさまざまな比較研究が進められています。未来の日本人が健康で長生きできるよう、生活習慣病、老人病の原因を社会の中に探り当て、それを取り除こうとする包括的な予防研究がなされているわけです。今日の日本人の長寿や、老人保健法、健康増進法の制定には、このような研究が大きな役割を果たしてきました。

社会生活の人権と安全を守る

法医学では、医学を法的問題の解決に応用するために、社会的実践として変死体の解剖を行い、死因を病理学的・中毒学的方法等で解明しています。また、個人識別や犯罪捜査のための DNA 型検出法や、薬毒物の測定法の開発、中毒のメカニズムについても研究し、より良い社会の維持や治安のために大きく貢献しています。

メンタルヘルスと社会

現代社会では、児童や老人の虐待、ドメスティック・バイオレンス、アルコール・薬物依存、自殺や犯罪を始めとする逸脱行為など、メンタルヘルスと密接に関係するさまざまな現象が発生しています。これらの現象の実態と原因を科学的手法で解明し、予防や治療のための方法を開発しています。

環境問題に取り組む

アジア地域で特に問題視されている井戸水からの慢性ヒ素曝露による中毒症状や世界的に深刻な問題である大気中微小粒子(PM2.5)曝露によって生じる各種疾患を分子レベルで研究しています。また、このような環境汚染問題に対処するために、世界各国と共同して研究に取り組んでいます。

さらに、地球温暖化による疾病負荷に関する研究を WHOと共同で行っています。 茨城県神栖町における有機ヒ素による健康被害の疫学的調査を環境省の依頼により行っています。

高齢者の生活リズムの変調に対する看護介入の効果を評価する研究

高齢者の3割が睡眠覚醒障害をもつといわれています。不眠は、免疫力を低下させるだけではなく、うつ状態や認知症の発症に関連し重大な健康問題であると捉えることができます。北海道から沖縄まで、高齢者の皆さんの生活リズムと睡眠の質について調査と測定を行った結果、概日リズムの同調因子(光、運動、食事、社会的交流)と生活習慣病および嗜好品などが強く関与していることが見出されつつあります。

このような実態から、生活リズムを調整する看護介入の意義と効果を評価する方法を開発しています。医療費高騰のおりから、睡眠薬による対処と比較した看護介入による医療経済効果についても検討しています。

国際発達ケア研究・コミュニティ ・エンパワメントと生涯発達ケアに関する研究

子どもからお年寄りまで、一生涯にわたる発達を踏まえながら、当事者の力を引き出すエンパワメントを科学する研究を行っています。エンパワメントとは「元気になる、元気を引き出す、一緒に元気になる」こと。誰もが持っている限りない可能性や力を最大限に発揮できる環境を整える方法を科学します。諸外国と共働しながら、個人や組織、地域の力を引き出すコミュニティ ・エンパワメントの仕組みづくり、よりよいケアの実現を図ります。

パプアニューギニアの子どもたち。感染予防のための健康教育の仕組み作りが大切。

保健師教育のあり方・保健師活動に関する研究

少子高齢化の急速な進展、生活習慣病の増加等、疾病予防のための保健指導、介護予防など、地域保健活動の重要性が今日ますます高まっています。そのような状況に対応できる保健師などの地域保健従事者のあり方を追求するために、教育環境の現状と課題を科学的に分析し、今後の方向性を示唆する研究を行っています。具体的には大学における地域看護学の履修時期、地域看護学の特徴を明確にする研究、また現任保健師教育の現状と課題を分析し、保健師育成指針、プログラムを作成し、提唱しています。今後は、保健師が用いるスキルを抽出し、その体系化を試みる研究を進めていく予定です。

センシングデバイスから有益な生理学的な情報を捉える研究

スマートウォッチが登場して世間一般に広く広まりつつありますが、スマートウォッチが搭載している脈拍の変動をとらえるセンシング機能の発達により医療に十分用いることができる精緻な生理学的情報の採取をいつでもどこでも容易に記録することができるようになりつつあります。脈波の変動は概ね心拍の変動と一致します。心拍の一拍ごとの時間間隔は規則正しく一定というわけではなく、長くなったり短くなったりという「ゆらぎ」=心拍変動を観測することができますが、加齢とともにその変動の大きさが小さくなっていくことが知られています。

ほかにも、循環器の機能の変調などの情報が心拍変動から得られる可能性があります。この知見を応用することで、在宅での療養に、プライバシーを過度に侵害することなく患者をモニタリングすることができるようになると考えられます。心拍変動はまた非線形あるいは複雑系(カオス的)と呼ばれるデータの解析が必要な難解なテーマですが、機序の解明に向けて研究しています。

看護学・医学・工学・理学の融合による月経周期に伴う女性の心身の不調の可視化に関する研究

女性は、女性ホルモンによって月経周期が繰り返されています。月経周期に伴い心身の不調を経験し、それらに起因した日本国内の経済損失は年間6228億円とも言われています。女性がいきいきと健やかに生活するためには、自分自身がその不調に気づくためのセルフモニタリングとセルフケアが重要です。

そこで我々は、脳の認知機能の客観的評価方法を用いて、月経周期に由来した精神的な不調を可視化する試みを行っています。女性の多様な症状を多面的に捉ることで、より精度の高い客観的評価指標の構築が可能であると考えています。そして、その特徴から効果的な介入方法を検討し、女性のQOL向上へ貢献していきたいと考えています。