当研究グループは、がんに罹患した方々が治療後も主体的に自身の健康管理に取り組めるようになるための働きかけを、情報通信技術(Internet Communication Technology: ICT)を積極的に取り入れながら考案し、その効果をQuality of Life (QOL)という側面から検証する研究に取り組んでいます。
この研究への取り組みは、研究グループの代表者が「がん体験者にとっての健康の意味とその構造」について研究を行ったことから始まります。研究では「結局は自分なんだ」という認識ががん患者における健康の鍵を握ることが明らかにされ、患者自身ががんという困難な体験に向き合うことの重要性が導き出されます。そして患者の自己管理能力を活性化させる支援の開発へとつながっていきます。
その過程で当グループは、まずがん体験者のケアニーズや援助の在り方を明らかにする研究を行います。その後の研究において、がん患者の自己管理能力への働きかけの効果を評価する指標としてQOLが選ばれます。患者報告指標(Patients Reported Outcomes: PROs)の代表といわれるQOLは、その概念の特徴から、患者の状況を本人の報告に基づいて複数の局面からとらえることができます。そしてグループの研究は、高度に情報化が進む現代の医療ニーズに対応するために、援助介入の手法にICTを積極的に取り入れていくことになります。また、より臨床に根ざした研究活動を目指し、国立がん研究センター東病院と共同して研究を行っています。
幅広くがん患者の健康に関わることを目指し、グループの代表者を中止に、禁煙支援に対するオンライン学習ががん看護実践に与える効果についての研究等にも取り組んでいます。
近年、乳がんや子宮頸がんといった女性に特徴的ながんの罹患率は上昇しています。女性のがん患者は、身体構造や生理機能の特徴のみでなく、出産や子育て、家庭や職場の活動といったライフステージの中で起きる出来事も踏まえて、診断時から、女性特有の問題に適切に対処しながら継続して健康を管理していく必要があります。また女性に限らず、がん患者が自身の健康を管理していくことは、生活習慣病や晩期合併症、二次がんの予防や管理といった課題への対処にもつながります。そして医療には、患者が健康を自己管理する能力を発揮しやすい環境を創り出し、利用可能な資源を提供する責任があります。
本研究は、女性がん患者の自己管理能力を活性化させQOLを維持向上させるために、①疾病や治療の理解、②セルフモニタリング、③心のケアの3つを柱とする(3つのアプリケーションより成る)ICTを取り入れた継続支援プログラムを構築し、健康関連QOLを中心とするPROsにより多面的に、そして治療前から治療後6ヶ月にかけて縦断的に、その効果を評価することを目的としています。
本研究では、継続支援プログラムがもたらす健康関連QOLへの効果を明らかにするのみでなく、疾病や治療に対する患者の理解状況を系統的な形で把握してその内容と複数のPROsとの関係を確認したり、あるいは患者が体験した衝撃的な出来事に関する記述から導き出したパターンとPROsとの関係を確認したりすることができると考えています。
本研究において患者が生み出すPROsは電子情報として系統的な形で使用することが可能です。信頼性の高い尺度で測定されたPROsは、患者中心の医療の質評価においては必須指標とされ、医療の質や機能を客観的に評価することができます。ただしPROsを効果的に扱うには、その情報を適切に管理、利用するためのシステムの構築が必要になります。そこでさらに本研究を発展させることにより、PROsと医療データとの間にある関係のパターンを導き出し、集学的治療に係る医療の質を保証する上で重要な要素を明らかにできれば、その内容を反映させたデータベースの構築に役立ち、効率的な情報管理も可能になると考えています。
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