GATA-1遺伝子の発現制御領域の研究

 転写因子GATA-1は,GATA配列(WGATAR)を認識してDNAに結合する転写調節因子GATAファミリー(GATA-1からGATA-6の6つの因子により構成される)のひとつで,血球系の細胞では,赤芽球,巨核球,好酸球,肥満細胞などに発現している.特にGATA-1がグロビン遺伝子やヘム合成酵素などの赤血球分化に重要な遺伝子や,多くの巨核球関連遺伝子の発現を統合的に制御していることから,私たちは,鍵因子GATA-1の発現制御機構を検討することが,個体での赤血球巨核球造血システムを理解するために必須と考えている.

 GATA-1遺伝子には翻訳されない第一エクソンと,実際に蛋白をコードするエクソンの,計6つのエクソンから構成されている.私たちは,試験管の中では再現できない,真の発現制御システムを解析するために,GATA-1の発現制御領域にβガラクトシダーゼ(LacZ),緑色蛍光蛋白(GFP),発光酵素(Luc)などのレポーター遺伝子を構築し,トランスジェニックマウスやトランスジェニックフィシュを作製して解析している.これまでに,IEの上流-3.9 kbpより第2エクソンまでの領域があれば,血球系に於ける生理的なGATA-1遺伝子の発現を再現するのに十分であることを見いだした(図1).私たちは,この領域をG1HRD : GATA-1 hematopoietic regulatory domainと呼び,GATA-1の血球分化におけるGATA-1の機能機能を個体で検証するためのツールとして用いている(GATA-1と血球分化の項を参照).また,この領域内の詳細な解析によって,胎児型赤血球でのGATA-1遺伝子発現には,上流よりG1HE領域,double GATA領域,CACCC領域が重要であり,成体型赤血球でのGATA-1の発現には,これら3つの領域に加えて,イントロン領域の制御領域が必須であること,これら4つのシス領域をタンデムに連結した約1kbの構築(GATA-1 minigene)で,個体でのGATA-1の発現を再現できることを見いだした(図1).興味深いことに,GATA-1遺伝子の主要な制御領域の多くが,GATA boxを含む領域であった.このことは,GATA-1を含むGATA転写因子群がGATA-1遺伝子の発現を制御していることを示している.実際,レポータートランスジェニックフィッシュを用いた解析から,自己二量体を形成したGATA-1が,GATA-1自身の遺伝子発現領域に結合し,その発現を正に制御していることを明らかにしている.

図1

 ところで,動物個体から造血組織とりだして解析する従来の解析方法では,個体毎の経時解析が行えなかった.その欠点を回避するためには,ルシフェラーゼ発光酵素を用いたトランスジェニックマウスは有効なツールになる.私たちは,発光酵素をコードする遺伝子をGATA-1の発現制御領域(G1HRD)およびβグロビン発現制御領域(β-LCR)に連結し,それぞれトランスジェニックマウスを作成した.貧血誘導や低酸素条件下などのストレス造血時には,まず血中のエリスロポエチン濃度が上昇し,それをトリガーとしてGATA-1遺伝子が発現し,やや遅れてグロビン遺伝子の発現が上昇することを見いだした.現在は,これら赤血球造血に重要な因子の発現をリアルタイムで解析することで,造血の恒常性維持機構のさらなる解明に取り組んでいる.

図2.GATA-1の発現制御領域(G1HRD)とbグロビンの発現制御領域(b-LCR)にルシフェラーゼ発光基質をコードする遺伝子を連結し,トランスジェニックマウス個体内でのそれぞれの遺伝子発現を検討した.定常状態では,いずれの発現も検出感度以下であったが,貧血からの回復時には,まずGATA-1遺伝子(上段)が発現し,遅れてbグロビン遺伝子(下段)が発現する.

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