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肥大型心筋症に対する経皮的中隔心筋焼灼術

【担当医師】
平谷 太吾

肥大型心筋症の症状と治療

肥大型心筋症は、明らかな心臓肥大を起こす原因なく左室の心筋が肥大する疾患です。肥大型心筋症には家族性があり、多くの病因遺伝子が判明していますが、遺伝の関係しない孤発例もあります。有病率は我が国では人口10万人あたり374人と言われ、それほど稀な疾患ではありません。肥大型心筋症患者の年間死亡率は2.8%とされており、その原因は、突然死、不整脈、心不全、脳卒中などと言われています。突然死に関する危険因子として、心室頻拍、突然死の家族歴、原因不明の失神、著しい左室肥大、心房細動などが挙げられます。

肥大型心筋症の中でも、肥大による左室内腔の狭窄が存在する場合を閉塞性肥大型心筋症と呼びます。閉塞性肥大型心筋症は肥大型心筋症全体の約25%程度とされています。最も頻度が多いのは左室流出路狭窄を示すタイプで、このタイプは特に、動作時の息切れなど心不全症状や、失神、突然死のリスクが高いとされています。

肥大型心筋症は、症状や検診の胸部X線や心電図で疑われ、心エコー図検査、CT、MRI、心臓カテーテル検査などで詳細な診断がなされます。閉塞性肥大型心筋症の治療は、まずは薬物治療であり、心筋の過剰収縮を抑える薬が投与されます。それでも心不全症状や、失神などの症状が改善せず、左室内の狭窄前後に有意な圧較差が存在する場合に、経皮的中隔心筋焼灼術や外科手術が適応となります。なお、肥大型心筋症の患者さまのなかでも突然死のリスクが高いと考えられる場合には、植込み型除細動器が検討されます。

経皮的中隔心筋焼灼術の方法

左室流出路狭窄の原因となっている肥厚した中隔心筋に流れる冠動脈の枝(中隔枝)にエタノールを注入し、局所的に心筋を壊死させることで左室流出路狭窄を解除する治療法です。基本的な手技は、狭心症や心筋梗塞のカテーテル治療である経皮的冠動脈形成術(当院で年間200件以上施行)に準じています。

閉塞性肥大型心筋症は脱水になると増悪するため、手術当日の朝から点滴を致します。
通常は局所麻酔で、足の付け根の血管(大腿動脈と大腿静脈)、および手首の動脈からカテーテルという細い管を入れて行います。また右首の静脈から一時的ペースメーカーリードを留置します。まず治療前に、右心カテーテル検査で心不全の状態や心臓のポンプ機能を調べます。次に左室流出路の狭窄前後の圧較差を測定します。その後に治療の手順に移ります。

左冠動脈の入口にカテーテルを進め冠動脈造影を行います。同時に心エコー図で観察し、エタノール焼灼を行う中隔枝を選定します。次に標的の中隔枝に細く柔らかい針金(ガイドワイヤー)を通します。ガイドワイヤーに沿わせて小さい風船(バルーン)を持っていき、バルーンを膨らませることで中隔枝の血流を遮断します。バルーンの先端から造影剤を流して漏れがないことを確認し、エタノールを注入します(この際しばらく胸が痛むため、事前に痛み止めを投与致します)。心エコー図で焼灼された範囲を確認しながら、必要あれば他の中隔枝にも同様の手順でエタノールを注入します。再び圧較差測定を行って、急性期の治療効果を判定します。最後に左室造影、および右心カテーテル検査を行い終了です。
治療の時間は約3時間です。

手術終了後は、右首の一時的ペースメーカーリードは入れたまま集中治療室に入室します。経過が順調でも安全のために3日間は集中治療室で心電図モニター管理します。入院期間は最低でも7日間です。
この手術による自覚症状の改善や左室内圧較差の減少は長期的に維持できるとされていますが、症状再発や左室内圧較差の再上昇に対する再手術は5~15%に実施されています。

経皮的中隔心筋焼灼術の合併症

一般的には安全な治療であり、我々も危険性を最小限にすべく努力していますが、残念ながら治療に伴う危険性をゼロにすることはできません。合併症として以下のようなものがあります。
※なお以下の合併症発生率は、我が国で最も多い治療経験を持つ、榊原記念病院 高山守正医師のデータを基にしています。当院でこの治療を開始するにあたり、しばらくは高山医師を招聘しサポートいただく予定です。

❶死亡

0.7%程度

❷完全房室ブロック

中隔枝焼灼により心臓の刺激伝導系が障害されることで起こることがあります。術中や術後間もなくでは15%程度の発生率がありますが、完全房室ブロックが改善せずに永久的なペースメーカー植込みが必要になる確率は、5%未満とされています。

❸心室性不整脈(心室頻拍、心室細動)

0.7%程度

❹心タンポナーデ

1%前後。術中、術後に留置している一時的ペースメーカーリードが右室を貫いてしまった時などに発生します。心臓の周りの血液を取り除く処置(心嚢ドレナージ)や緊急手術が必要になる可能性もあります。

❺冠動脈解離

0.5%程度。カテーテル挿入によって左冠動脈入口部に発生することがあります。またバルーン拡張手技などによって、左前下行枝本幹に冠動脈解離が発生することがあります。解離腔の拡大によって冠動脈が閉塞する可能性が高いと判断した場合には、冠動脈にステント留置術を行うこともあります。

❻後腹膜出血

0.5%程度。鼠径部を穿刺したときの内出血が腰の方に流れ込み大量出血となることがあります。出血の程度によりますが、輸血が必要になることや、ショック状態になって命に関わることもあります。

❼エタノール流出による左前下行枝本幹領域の広範囲心筋梗塞

非常に低い可能性ですが、発生すると命に関わることがあります。

治療中に状態が悪化した場合には、呼吸を補助するための人工呼吸器を使用したり、心臓の働きを肩代わりする機械(大動脈内バルーンパンピング、経皮的心肺補助装置など)を使用することがあります。

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