筑波山




筑波大学 人間総合科学学術院 実験病理
加藤 光保


 

  •  サイエンスは面白い。特にグループで研究を進めながらも、ひとりひとりが個別のテーマを持つことができるライフサイエンスはとっても面白いと思う。実験科学としてのライフサイエンスの面白さの理由のひとつは、自分の頭の中で考えた仮説の正誤を、比較的短時間の実験で確認できることにある。私たちは医学研究を行っているので、どうしてがん細胞ができるのだろうとか、どうしてがん細胞は転移するんだとかいう身近な問題に答えるために色々な実験を計画する。実験をする時には、これまでの知識からしてこういう結果になるだろうなどと予測する。予測通りの結果の場合もあれば、予測は全く外れる時もある。外れたときは、なぜだろうとまた考える。もしかして常識だと思っていたことが間違いなんじゃないかと思う。もしこうだったらこういう実験をすればこんな結果になるはずだと考える。また、実験する。ドキドキしながら結果を待つ。結果を見て、また考える。もちろん、何をやってもうまくいかない時もある。何をやっても何だかすっきりしない。自分のアホさかげんに嫌気がさすこともある。それでも黙々と実験する。そんなことを繰り返すうちに、最初の考えと実際に生物で起こっている事実は相当異なっていることに思い至ったりする。思いもしなかったような発見に出会う時がある。きっとこの事実は、今現在、世界で自分しか知らないと思う瞬間がある。些細な発見でも、何だかとっても幸せな気分になる。次の瞬間には、その事実を元に、さらに新しい疑問が湧く。また実験したくなる。次の実験を計画するのは、きっと皆が想像できないくらい面白く、結果を待つのはいつもドキドキものだ。頭ではなんとなく正しそうだと思えることも、間違いであることがよくあると僕らは思っている。現実は私たちの思考を超えた存在だと思うと共に、それを操作すること、たとえば、身体の中のがん細胞だけをやっつけたり、がん細胞が転移できないようにコントロールすることも、もうすぐできるかも知れないと希望に夢が拡がるのが良い。

  •  サイエンスの面白さのもうひとつの理由は、それが積み重なるという点にあると思う。私達は、過去の天才たちが明らかにしてきた事実や開発してきた技術を利用して、新たな問題に向かうことができる。いわば先人たちが築いてきた山の上に、また土を盛るようなものだ。たとえ自分が盛った土は10cmしか高さがなくても、過去に100m位積み上げた天才たちよりも、さらに高いところから絶景を満喫できる。どんどん色々なことがわかって、やれることもどんどん増えてくる。そうして、自分たちが論文として発表した研究結果を元に新たな研究を計画する人が世界各地に現れたりすることを感じることができる。世界を感じながら生きられる。歴史の中で生きているって感じられる。

  •  このホームページは、そんな研究生活を送っている私達の日常の記録にしたいと思っている。全国の高校生や大学生が時々のぞいてみたいと思うようなページにしたいと思う。