論文掲載 2023年 4月 3日

筋肉を速筋タイプにする転写因子を同定

〜加齢や病気で低下した筋機能の改善方法開発に期待〜

筋肉(骨格筋)を構成する筋線維 (骨格筋細胞) は、遅筋 (I 型, 赤筋) と速筋 (II 型, 白筋) の2タ イプに大別され、 さらに速筋は3タイプ(IIa, IIx, IIb)に分けられます。遅筋はマラソンのような持 久的な筋収縮が得意です。一方、速筋は収縮スピードが速く、瞬間的に大きな力を出す特性がありま す。実際の筋肉には異なるタイプの筋線維がモザイク状に入り混じって存在しており、その比率によ って、収縮能力や代謝能力など筋肉の質が決まります。筋肉の線維タイプ組成は、さまざまな環境因子 (老化、トレーニング、宇宙滞在、不活動、筋疾患、食事など) の影響で後天的に変化します。


これまで、遅筋線維を誘導する強力な因子はいくつか同定されていましたが、速筋線維を誘導する 因子はほとんど知られていませんでした。このため、本研究チームは、特に速筋線維を作り出す機構の 解明を目指しています。 宇宙環境下でマウスを約1カ月飼育すると、筋肉の萎縮と速筋化が生じることは古くから知られて いました。本研究チームは今回、宇宙飼育マウスの骨格筋で発現している遺伝子を解析し、大 Maf 群 転写因子 (Mafa,Mafb,Maf) と呼ばれる3種類の遺伝子の発現が顕著に上昇していることを発見し ました。次に、その働きを調べるため、骨格筋に発現する大 Maf 群転写因子をすべて欠損させたノッ クアウトマウスを作製しました。すると、このマウスの筋肉は、速筋タイプの中でも最も速筋線維の特 性が強い IIb タイプが消失し、IIa と IIb だけで構成されるようになりました。また、それとは反対に、 大 Maf 群転写因子を筋肉で過剰に発現させると、本来は IIb 線維を持たない筋肉で IIb 線維を作出で きることを明らかにしました。 今回の研究成果を踏まえ、大 Maf 群転写因子を創薬のターゲットにすれば、加齢や病気によって変 化した筋線維のタイプを再プログラム化し、筋肉の質を改善させる方法の開発が期待できます。また、 将来的には、肉質制御による食肉産業への応用、さらにはアスリート向けなどのトレーニングプログ ラムの開発にもつながると考えられます。

研究プレスリリース PDF

Cell Reports       DOI 10.1016/j.celrep.2023.112289
   Large Maf transcription factor family is a major regulator of fast type IIb myofiber determination.
(大 Maf 群転写因子は骨格筋を速筋線維タイプ IIb に決定する主要な因子で ある)