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論文掲載 2023年 2月 22日

生体外でのヒト造血幹細胞増幅技術を開発

〜血液疾患の細胞治療実現に向けて〜

造血幹細胞は、赤血球・白血球・血小板といったさまざまな血液細胞へ分化する能力を持っており、 難治性血液疾患に対して行われる造血幹細胞移植では、移植後の造血および免疫の再構築において重 要な役割を担います。しかし、造血幹細胞は非常に数が少なく、特に臍帯血移植においては、移植のリ スクが増したり、ドナー選択が制限される可能性があることから、生体外増幅技術の確立が求められ ています。


 これまで、生体外での造血幹細胞の維持には、血清アルブミンとサイトカインを組み合わせた培地 が不可欠とされてきましたが、実際には、短期間の造血幹細胞維持はできるものの、その増幅作用は限 定的でした。

  2019 年に日米英独共同研究グループは、ポリビニルアルコール培地にサイトカインを加えると、血 清アルブミンを用いずに、⻑期に安定してマウス造血幹細胞を増幅できることを報告しています。こ れに基づき、今回、アルブミンとサイトカインを、それぞれ高分子ポリマーと特定の化合物に置き換え た培地を用いて、ヒト造血幹細胞の生体外での⻑期増幅を可能とする新規の培養技術を開発しました。 これにより、臍帯血に含まれるヒト造血幹細胞を 1 か月間にわたって増幅することができます。さら に、単一細胞 RNA シークエンス解析により、既存の培養技術と比較しても、造血幹細胞が選択的に増 幅されることが示唆されました。

今後、この培養技術をヒト造血幹細胞の基礎研究ツールとして提供するとともに、より安全な造血 幹細胞移植の実現とドナー不足の解消に向けた臨床応用を目指します。

研究プレスリリース PDF

Nature 【DOI】 10.1038/s41586-023-05739-9
      Chemically defined cytokine-free expansion of human haematopoietic stem cells.
    (化合物で構成された培地によるヒト造血幹細胞増幅)


プレスリリース 筑波大学ウェブページ

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論文掲載 2023年 2月 14日

転写因子c-Mafの発現時期の制御により糖尿病や慢性腎臓病が治療できる可能性を発見

慢性腎臓病は、糖尿病や高血圧などの生活習慣病が原因で発症することが多く、日本の患者数は成人の8人に1人(約1330万人)と推計されています。慢性腎臓病は、初期症状がほとんどないまま進行し、重症化した腎臓の機能障害は、心筋梗塞や脳卒中、動脈硬化症などの心血管疾患の発症リスクも著しく増加させることから、より早期に診断し、重症化の予防や治療を開始することが必要とされています。しかしながら、現在のところ、進行した慢性腎臓病の根本的な治療薬はありません。


本研究グループは、これまでに、転写因子(遺伝子の発現を制御するタンパク質)c-Mafが、糖尿病に対する治療効果に加えて、腎障害や心血管疾患にも関与する近位尿細管の各種膜輸送体タンパク質の発現を制御していることを発見しています。また、c-Mafは、胎生期の臓器の発達や免疫細胞の機能調節に関与することが知られていますが、成体での働きはよく分かっていません。

 本研究では、糖尿病とそれに伴う腎障害を発症するモデルマウスにおいて、成体になってから全身でc-Mafを欠損させたところ、糖尿病による高血糖や腎障害が改善され、腎障害の主な原因の一つである腎臓の酸化ストレスを減少させることを発見しました。すなわち、c-Mafの発現時期を制御することで、糖尿病および慢性腎臓病を改善できると考えられ、c-Mafを標的とした糖尿病および慢性腎臓病の新規治療法の開発につながる可能性が示唆されました。

研究プレスリリース PDF

JCI Insight       DOI 10.1172/jci.insight.163306
   Transcription factor c-Maf deletion improves streptozotocin-induced diabetic nephropathy by directly regulating Sglt2 and Glut2.
(転写因子 c-Maf 欠損は Sglt2、Glut2 の直接制御によりストレプトゾトシン誘導型糖尿病 性腎症を改善する)

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2022年 12月 9日

興奮性ニューロン内の分子シグナルが睡眠を制御する

〜眠りの量と質が決まる仕組みを解明〜

睡眠は誰にでも必要ですが、なぜ眠らなければならないのかは現在でも謎です。本研究チームは、この謎を解く鍵となる酵素(SIK3)に注目していました。この酵素は睡眠に関わる脳内の反応の連鎖を調節し、睡眠の質と量を調整する分子のシグナルを形成します。しかし、SIK3がどのような分子と連鎖を作ることで睡眠を制御しているのか、どの細胞を介して睡眠の量や質を決めているのかは分かっていませんでした。本研究では、その連鎖(分子シグナル)の詳細と、この分子シグナルが調節する遺伝子群を、世界で初めて明らかにしました。


 また、睡眠の質は大脳皮質の興奮性ニューロンが制御し、量は視床下部の興奮性ニューロンが制御することを見いだしました。ウイルスベクターを用いて、後天的に睡眠の量と質を変化させることで、この分子シグナルをさらに検証することにも成功しています。

  睡眠は、心身の健康に不可欠であり、睡眠障害は精神疾患や糖尿病、心疾患、アルツハイマー病などの認知症のリスクを高め、日中の脳のパフォーマンスを低下させます。我が国では多くの国民が睡眠負債(睡眠不足に伴う心身の不調)を抱えていると言われており、睡眠の量と質を制御する仕組みの理解を通じて、新しい睡眠制御方法や睡眠障害治療法の開発に貢献することが期待されます。

研究プレスリリース PDF

Nature 【DOI】 10.1038/s41586-022-05450-1
      Kinase signalling in excitatory neurons regulates sleep quantity and depth.
    (興奮性ニューロンにおけるキナーゼシグナルが睡眠の量と質を制御する)


Nature 【DOI】 10.1038/s41586-022-05510-6
      A signaling pathway for transcriptional regulation of sleep amount in mice.
    (マウスの睡眠量を調整するシグナルパスウェイと転写制御)


プレスリリース 筑波大学ウェブページ

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2022年 12月 2日

2022 年度『化血研研究助成』

TMRC 統合医科学研究部門、先端血液腫瘍学の坂田-柳元 麻実子教授は、2022 年度『化血研研究助成』に選ばれました。助成金は 先端血液腫瘍学での「加齢を素因とする悪性リンパ腫の発症機序の解明」のため使用されます。

化学及血清療法研究所 プレスリリース PDF

TMRC 統合医科学研究部門 - 先端血液腫瘍学

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2022年 12月 1日

筋肉の幹細胞が眠る仕組みを解明

〜筋疾患治療法の開発に貢献〜


だれもが、激しい運動後の筋肉痛を経験したことがあるでしょう。ですが、痛みは数日程度で和ら ぎ、損傷した筋肉は修復されます。このように筋肉 (骨格筋) は再生・修復能力に⻑けた組織ですが、 その能力は加齢や病気により著しく低下します。これを防ぎ、修復機構を生涯にわたって維持するに は、骨格筋組織内に存在する幹細胞 (骨格筋幹細胞) の機能解明が欠かせません。
子供が成⻑する過程で、骨格筋幹細胞は盛んに増殖し、筋肉を形成します。成⻑が止まった大人の筋 肉では、骨格筋幹細胞は眠った状態(休止期)に入りますが、激しい運動などで骨格筋が障害を受ける と、眠りから目覚めて増殖し、筋肉を修復・再生します。再生が完了すると、再び眠りにつきます。と ころが、加齢や慢性的な疾患に伴い、勝手に目覚めてしまう骨格筋幹細胞が増えます。このような状態 が続くと、幹細胞の数や機能が徐々に低下し、加齢性の筋肉疾患につながると考えられます。
このため、本研究チームは、骨格筋幹細胞が眠る仕組みを解き明かし、将来的には幹細胞の減少や機 能低下を予防する方法を確立したいと考えています。
本研究では、休止期の骨格筋幹細胞の表面に強く発現している接着型Gタンパク質共役受容体の GPR116 に着眼し、骨格筋幹細胞が眠る仕組みの一端を解明しました。GPR116 遺伝子を欠損したマ ウスを作製してその機能を調べた結果、GPR116 とその標的となる下流因子 β-arrestin1 が骨格筋幹 細胞の休眠状態に必須であることを同定しました。GPR116 自体は、細胞の外側にある物質(細胞外 基質)と結合し、細胞外の情報を細胞内部へ伝えることで休眠状態を維持することが示唆されました。
今後、GPR116 やその関連経路を創薬ターゲットにすることで、加齢や病気によって異常に活性化 した骨格筋幹細胞を眠りへと誘う新しい筋疾患治療法の開発に貢献することが期待されます。



プレスリリース PDF

Cell Reports
    The adhesion G-protein-coupled receptor Gpr116 is essential to maintain the skeletal muscle stem cell pool.
    Volume 41, ISSUE 7, 111645, November 15, 2022
   
https://doi.org/10.1016/j.celrep.2022.111645

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お知らせ 2022年 11月 10日
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2022年 10月 10日

坂田-柳元教授が日本癌学会モヴェルネ賞を受賞しました。



筑波大学血液内科の坂田-柳元教授が、2022日本癌学会モヴェルネ賞のTranslational Research部門を受賞しました。
坂田-柳元教授は、「Translational research targeting intractable lymphomas」に関する優れた研究成果が認められました。

日本癌学会とDebiopharm社は、基礎および応用の両面から最先端の癌研究を表彰し、日本の研究者がその研究を世界に発信することを奨励するために、JCA-Mauvernay Awardを共同で創設しました。

もっと読む → (Japan Cancer Association (JCA) ウェブページ)

アワード情報 → (Japan Cancer Association (JCA) ウェブページ)

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2022年 10月 10日

廣川教授、高橋教授がAMED-BINDSプロジェクトに採択されました。



「生命科学・創薬研究支援基盤事業」は、我が国の幅広い生命科学関連研究に立脚し、その中の優れた研究成果を創薬研究などの実用化研究開発に繋げることを目的とした事業です。 ・・・ もっと読む → (BINDSウェブページ)

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2022年 10月 30日

細胞間相互作用による遺伝子発現を推定する解析手法を開発

私たちの身体は多種多様な細胞から構成されており、それらが互いに相互作用しあって、発生プロセスが適切に進行するとともに、組織・臓器の恒常性が維持されています。この細胞間相互作用が破綻すると、疾患につながることもあります。


 一方、同じ種類の細胞型であっても細胞ごとに発現が変動する遺伝子があることが知られています。これらの遺伝子の中には、細胞の機能に関与するものも多くあるため、細胞集団全体の機能や疾患の発症にも影響します。このような、細胞間での遺伝子発現変動には、細胞間相互作用が関連することがいくつかの例で知られていたものの、複数の細胞型が遺伝子発現に与える影響を網羅的に調べる方法が存在せず、その全貌は明らかではありませんでした。

 本研究では、細胞の機能と空間座標を同時に計測する1細胞空間トランスクリプトームデータを用い、近傍の細胞が互いに遺伝子発現に与える影響を推定する情報解析手法CCPLSを開発しました。この手法は、ある細胞型に着目した際の、近傍の細胞型の種類と、それによる遺伝子発現との関連を推定するものです。シミュレーションデータを用いた評価実験を行ったところ、CCPLSが細胞間相互作用を精度高く推定できることが分かりました。また、脳や大腸における実データへの適用例から、具体的な細胞間相互作用を抽出することができ、本手法の有効性が示されました。

 CCPLSは1細胞空間トランスクリプトームデータ全般に適用可能であり、細胞の微小環境に着目した創薬標的探索などへの応用が期待されます。

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Bioinformatics 【DOI】 10.1093/bioinformatics/btac599
      CCPLS reveals cell-type-specific spatial dependence of transcriptomes in single cells.
    (CCPLS により1細胞解像度で解明する遺伝子発現の細胞型特異的な空間依存性)


プレスリリース 筑波大学ウェブページ