活動報告

   


「公開シンポジウム・班会議」報告

(1)福田敦夫(浜松医科大学・生理学第一講座)

「脳の発生・発達・記憶に関する合同班会議の方向性」

 今回私が参加した班会議はA01班「脳の発生における分子細胞生物学的研究」A02班「脳の発達生理機能の研究」とB01班「記憶・学習・思考の分子生物学的研究」の合同班会議である。私が所属するのはA02班で専門は神経回路機能の発達・可塑性や病態であるので、勿論この分野の話に興味があるが、神経生理学者の私には理解が難しそうな内容の発表も多々あるので、感想文を書くように言われたときには少々不安であった。しかし、そもそも班会議を合同で行う意図は異分野、異なったアプローチを用いている研究者同士にお互いを理解させ、相補的な関係を構築して共通の目的に向かわせるということだと思う。そして、その様なヘテロ集団を幾つかの共通の目標に向かわせ、日本の脳研究にbreakthroughをもたらそうというのがミレニアムプロジェクトとしての「先端脳」のそもそもの狙いであるとも理解している。こうした観点から、今回のレポートでは、この班会議でどの様な方向性が見えてきたかについて概説することにした。幸い、先端脳News Letter第1号に各班の目標設定が班長の先生方によって記載されているので、それに沿ったかたちで話をすすめたい。従って個々の内容ではあまり掘り下げた解説は出来ないかもしれないが、それは抄録集に詳しく記載されているので、ここでは生理学者の立場で見た動向ということでご容赦願いたい。  まず、公開シンポジウムでも岡野先生が話題提供した神経幹細胞に関する研究が非常に目を引いた。活性化因子としてのmusashi1, BMP2や抑制因子としてのNUMBなどNotch signalに関する研究が報告され、抑制性/促進性bHLH因子のバランスが神経幹細胞からニューロン/グリアへの分化の調節に関わっていることも明らかになった。また、ヒト神経幹細胞を用いたアプローチなども披露された。折しも、米英でヒトES細胞を用いた研究に対する規制の緩和が発表されたが、我が国もA01班の研究目標の一つ「神経幹細胞の増殖・維持・分化の制御機構の解明」に向けて順調に滑り出したようである。「神経細胞分化と神経細胞の領域特異性決定の分子機構」ではolig2とNgn2の共発現が脊髄運動ニューロンへの分化を決定したり、BMP-4中和分子のRALDH-3, ventropinが網膜の領域特異化に関与することなどが明らかになった。小脳発生のkey factorとしてFGF8と協調して働くIrx2と小脳シナプス形成に関与するcupidin、大脳皮質形成におけるCDABP、神経管の背側パターン形成をダイレクトに制御するWntなどの機能が明らかになってきた。「神経軸索伸張を制御する因子の同定と情報伝達系の解明」では反発性軸索ガイダンス分子のセマフォリンに注目した研究や、嗅覚系をモデルにした位置特異的な軸索投射の研究、Rho関連分子による軸索伸張制御についての研究が目に付いた。また、CRMP-2が軸索と樹状突起の決定因子として作用するのではないか、subplate neuron特異的なDLL3が層構造形成と視床からの入力繊維の調節に関与するのではないかとの話は興味深かった。その他、個人的にはelectropolation でGFPを発現させる方法は細胞移動に関連した生理実験に応用が効きそうで興味深かった。  A02班が掲げた目標として「視覚野カラム構造形成と神経活動」「大脳皮質体性感覚野の形成と可塑性の分子機構」「シナプス機能の発達メカニズム」が挙げられるが、これらに共通して言える一つの傾向として、多くの班員がBDNFの作用に注目している点である。津本班長、畠中先生らにより、BDNFが神経活動依存的にシナプス終末で放出され、しかもtrans-synapticに伝わる可能性がGFP-BDNF融合蛋白を用いて可視化されたことは画期的である。発達に伴うBDNFの発現調節は活動依存的なCa流入-CREB活性化が関与すると考えられ、視覚野の眼優位可塑性にも関わることも示された。また、バレル皮質で視床-皮質投射の興奮性シナプスの体性感覚入力依存性のNMDAからAMPAへの受容体のswitchingにも関与する可能性のあることは興味深い。もう一つの傾向は抑制性シナプス伝達に関する研究が多かったことであろうか。これまで多くの研究は興奮性伝達物質のglutamateと細胞内Caの変化に焦点が絞られることが多かったが、ちがった切り口も徐々に根付いて来ており、今後の展開が楽しみである。特に脳の様々な部位(大脳皮質、脊髄、脳幹)の発達過程初期でのGABA作用が興奮性か抑制性かで議論があったが、発達に伴う聴覚入力に依存した伝達物質(GABA/glycine)や受容体(NMDA/AMPA)のswitchingの話題も興味深く、その分子機構を明らかにできれば発達に限らず神経活動依存性の可塑性を理解する手がかりになるかもしれない。もう一つの目標である「小脳におけるシナプスの競合と脱落」では登上線維-プルキンエ細胞の過剰シナプスが除去される過程が詳細に示され、今後はその分子機構が明らかにされていくことと思う。  B01班の目標では「シナプス機能・形成分子のconditional knock outを用いた記憶・学習・思考の分子レベルでの研究」が挙げられる。三品班長のGluRε2のヘテロ欠損マウスに特異的に驚愕反射が亢進したという結果は精神疾患との関係から興味深く、その他にもプロスタノイド受容体やモノアミントランスポーターのノックアウトマウスでも情動やストレス反応の変化から精神疾患の病態との関連が注目された。また、ノックアウトとは異なるが、シナプス機能分子がどの様にして入力を受けたシナプス特異的に輸送されるかについての話はユニークであった。もう一つの特徴として、これはA01班の動向とも一致するが、機能分子やその動態を可視化してシナプス可塑性の分子機構を明らかにしようというアプローチである。これにより、分子レベルの知見をより機能と結びつけて考えることが出来る。すなわち、YFP-NR2融合蛋白によるNMDA受容体の可視化、GFP融合蛋白によるPKCやDGKのトランスロケーションの可視化、cagedグルタミン酸と2光子励起法による単一シナプスレベルのグルタミン酸受容体機能の可視化などである。もう一つの目標である「小脳における運動学習機構の分子レベルの解析」では、プルキンエ細胞における抑制性シナプス伝達の脱分極依存性増強が細胞部位特異的なGABAB受容体活性化で抑制されることが明らかにされたが、小脳プルキンエ細胞特異的に任意の時期に遺伝子発現を制御できる系も開発され、この領域の今後の展開に大いに寄与すると考えられる。  以上、今回の班会議を通して脳の発生・発達・記憶に関する我が国の先端的研究の方向性について、非常に大まかではあるが述べさせていただいた。班員数はA01班30名、A02班20名、B01班15名で、これはそれぞれの研究分野におけるおよその研究者数の割合を反映しているのかもしれない。テーマの関係で他の班に所属している人も多いと思うが、班全体としては、特定分野にあまり集中せず、むしろヘテロ集団を構成し、班員相互の啓発と協力により個々の力では解決しがたい難題に立ち向かうのに適した構成になっていると思う。ただ、班会議のスケジュールが非常にタイトであったので、情報交換や親睦の時間が十分になかったのが残念であった。個人的には途中の夕食の時間を後に回して懇親会形式に出来たらよかったと思う。うち解けた雰囲気の方が(アルコールによる脱抑制もあるかもしれないが)話しやすいと感じるのはやはり日本人の遺伝的背景のせいだろうか。もう一点残念だったのは、二日目の最後の頃になると既に帰ってしまった人が多かったことである。年末の忙しいときでもあり、また遠方より参加している人には交通手段の問題もあり仕方がないかもしれないが、上記の趣旨からするとこれはマイナスである。  最後に、米国のSociety for NeuroscienceのAnnual Meetingに毎年参加してみて私が肌で感じているのは、機能分子の同定とノックアウトマウスによる行動解析に奔走していたひところのパターンに多少変化がみられ、脳機能(変化)のメカニズムを細胞・神経回路レベルで解明しようとする地道な生理学的仕事がかなり復活してきていることである。神経回路網を対象とした研究を推し進め、分子・細胞レベルの機能が統合され、高次脳機能が発現されるメカニズムの理解を指向していることがうかがわれる。我が国ではまだこうした流れははっきりと見えてきてはいないようであるが、今後どう展開していくのであろうか。「先端脳」で21世紀の我が国の神経科学の方向性が示されるはずである。

(2) 石浦章一(東京大学大学院・総合文化研究科)

「21世紀の脳科学の進展は期待できそうである」

  師走も押し迫った12月22日に第1回公開シンポジウム「脳の発生・老化・機能」が午前中に、午後から23日にかけて班会議が行われた。私の担当はA03とA04の合同班会議だったが、公開シンポジウムについても少し感想を述べたい。  岡野(大阪大)、井原(東京大学)、丹治(東北大学)の3氏の講演は、さすがに我が国の脳科学を代表する研究者の話と思わせるものであり、脳科学の現状が手にとるようにわかるような好演であった。岡野は、ラット脊髄圧迫モデルを用いて、幹細胞の移植時期がクリティカルであることを示し、移植した細胞が宿主のニューロンとシナプスを形成して、運動機能が半分ほど回復することを実証した。なかなかシャープないい話であったが、移植して定着したニューロンの量が機能回復に必要な分の何分のいくつなのかなどの定量的な話がほしかった。しかしこの分野の世界の現状を考えると、そこまで望むのは難しいのかもしれない。井原はアルツハイマー病の研究の歴史から入り、今、問題になっているアミロイド形成と神経細胞死の関係、そしてアミロイドとタウの相互作用について数々の問題点を明らかにしながら、我が国の研究がどの方向に行くべきかを話した。特に、βタンパク質が細胞膜のlow density membrane domainに最初に沈着することが老人斑の形成に重要ではないか、と主張したが、これには説得力があった。確かにβタンパク質の形成機序は世界中の研究者の標的になっているのだが、老人斑が長い時間かかって形成されることを考えると、前駆体のプロセシングよりもそれが特定の脳の部位に保持される機構(なぜ長期間分解を受けないのか)の方が重要ではないかと、話を聴きながらふと感じた。丹治は一変して、サルを用いた動作選択のメカニズムを論じた。私は本当にこの分野については素人なので、なるほどと思いながら聴いていた(彼の話は、今まで聴いたこの分野のどの話よりも理解しやすかった)。内容は、数々の試行に対して異なる反応を示す細胞を分離していくわけだか、どれだけのニューロンがその領域にあるか知らないが、そのうちの数百個調べたことが全体に敷衍できるのか、という素朴な疑問が残った。もともとこの分野は、分子生物学に例えるとまだDNAが見つかってないような状況なので、せめて全部のニューロンの活動が非侵襲的に記録できるような装置の開発とか、個々の細胞での遺伝子発現が目に見えるようになるまでは、このような状況が続くのかもしれない。  A03とA04は、神経疾患の中でも特にアルツハイマー病と脊髄小脳変性症に代表されるタンパク質沈着性疾患に焦点を当てて治療法を開発する班である。多くの研究者がこの両班にまたがる興味を持っているため、合同で会議を持つのは大変良い試みであった。その中でも、疾患モデルの作製と意欲的な治療法の開発につながる研究に質問が集まった。特にA03班でのFTDP-17を突破口にタウからアルツハイマーを攻めようという何人かの姿勢は、アミロイド全盛の諸外国には見られない我が国独自の方針であり、聞いていて好感が持てた。また、リスクファクターであるアポEの機能を明らかにするための受容体ノックアウトマウスの話は興味深かった。BASEやγセクレターゼというはやりの研究をメインに発表したものが1つもなかったのには驚いたが、真似をしないまでも一矢を報いるような結果は出ないものだろうか。このまま向こうの言いなりでは寂しい気がする。  一方、ポリグルタミン病の方(A04班)は、すでに治療に向かった研究も視野に入っていて、これは21世紀の我が国の研究にとって大変好ましい傾向であった(といって、原因の究明という基礎研究の柱を軽視しているわけではない)。しかし、ポリグルタミン沈着の標的が転写因子であり、分子シャペロンだけしか沈着の抑制手段がないというのでは、これは完全な治療を目指す研究者にとっては手強い相手だ。転写因子やシャペロンの標的は多彩であり、厳密に制御されなければならないものを相手に相撲をとらねばならないからである。A04班ではこの他に、治療法の開発手段として神経再生とかペプチド導入という、新規手法に興味あるものが目立った。また個人的な興味で恐縮だが、タンパク質のコンフォメーション変化のしくみを明らかにしようという意欲的な研究も目についた。  私は、前回のNews Letterで、ここに集まった若い人たちに好き勝手に研究をやっていただいたら、どんなに素晴らしいものになるだろうか、と書いた。しかし、半年経って研究発表を聴いてみて、その見方も少し変わってきた。個々の研究は立派であるが、研究の目標が見えないものがいくつかあった(私見だが、66演題のうち10数演題ほど)。また、聞くに堪えないほどの初心者の発表もあった。昔の班会議と違って、今は真剣勝負なのだから、せめて私よりも若い人は自分の言葉で発表していただきたい(医学部の先生もですよ)。  もう1つつけ加えておきたいことがある。今回の会議でも、新規の脊髄小脳変性症原因遺伝子の発表(TATA結合タンパク質)や孤発例のアルツハイマー病での特定遺伝子の発現(プレセニリン2バリアント)など、新しい方向への踏み台になる発表があった。また、数々の疾患モデルマウス(特にノックインマウス)が作られた。これらは我が国の基礎・臨床研究の幅が広がっている証拠である。研究者の皆さんの努力に敬意を表したい。

(3)永福 智志(富山医科薬科大学・第二生理学)

「Point of No Return」

 C会場ではB02班 「システム回路形成およびその機能の研究」(班長;彦坂興秀)とB03 班 「モデル脳による記憶・学習・思考の研究」(班長;塚田 稔)が合同で班会議を行った。昨年まで10年間継続した「脳の高次機能」に関する特定および重点領域研究が培ってきた理論と実験の融合という新しい伝統のうえにのった活発な議論がなされたように思う。今回の班会議で、私にとって、とくに印象深かったのは、多くの理論家の先生方が、果敢にも新たに実験に取り組むことを宣言されていたことだった。理論と実験の融合を最終目的とした先行プロジェクトの必然的成り行きであったのかもしれないが、理論家の先生方が「先端脳」においてこのようなスターティングポイントを設定されたことは、実験屋のひとりとして大いに鼓舞されるものだった。逆に、実験屋としても理論に対してもっと果敢に、時にはもっと腰を据えて、臨むべきではないかと深く反省したのは私だけではないと思う。その意味で私は「先端脳」では絶好の勉強部屋を与えていただいたと思っている。以下、班会議の発表を手短に振り返りたい。  班会議初日は理論家サイドから、伊藤浩之先生(京都産業大学)の「テトロード電極を用いた多細胞同時記録実験データの統計解析法の開発」から開始した。脳における情報が複数のニューロン活動の時空間的関係に担われているとする「関係性」コードはいまや多くの実験的支持を受けているが、joint-PSTH など「関係性」コードをより厳密に検証する為の種々の方法論について吟味が行われた。つづいて、実験サイドから、王鋼先生 (鹿児島大学)による「in vivo 光計測法を用いた視覚野方位優位性コラムの形成に関する研究」の発表があった。ネコ第一次視覚野・方位選択性コラムの形成過程と視覚経験および先天的要因との関係解明を目指す、光計測法を用いた野心的研究だった。また、泰羅雅登先生(日本大学)による「三次元視覚情報処理の神経メカニズムの解明-単一ニューロン活動の記録と機能的MRIによる研究-」では三次元視覚情報処理における両眼視差情報と単眼視手がかり情報の意義について、行動下サルCIP野のニューロン活動記録だけでなく、事象関連MRIによる最新のデータも披露された。過去数年、神経生理学においては計測技術・データ解析技術の大きな飛躍があったが、それぞれの技術がもたらした成果を強く印象付ける内容だった。これら新しい方法論の射程は、もはや感覚・運動・反射などの研究に留まるものではなく、はるかに広く、深くなっている。今回の班会議においても、多くの発表が認知・注意・記憶・学習・情動・動機づけ・行動ひいては思考・推論・意思決定などの精神現象を標的に据えていた。例えば、藤井宏先生(京都産業大学)の「内的認知に関わる脳内リアルダイナミクスの解明」では、注意と意識に、塚田稔先生(玉川大学)の「学習と記憶のダイナミックモデルとその実験的検証」では長期記憶と文脈情報に理論家サイドからの概念的枠組みが与えられた。また、「こころ」の計算においては、複数・異種の神経回路モジュールが相互干渉するのであり、「それらのモジュールの組み合わせとして脳のシステムを捉える」(先端脳 News Letter 1巻1号、彦坂興秀先生の「班長挨拶」から引用。)ことを大きな方向付けとしていたB02班、実験サイドからは、伊佐正先生 (生理研)、「脳幹アセチルコリン作動性システムの注意、動機付けの脳内機構への関与」、河村満先生(昭和大学)、「脳変性疾患における「表情認知」障害の病態に関する研究」、中村克樹先生(京都大学)、「サル頭頂連合野における異種感覚情報の統合機序の研究」などの発表があった。(私自身も「サル上側頭溝前部における「顔」、「視線」及び「声」のニューロン表現」と題する拙い発表を行ったが、見事、友情と教育的配慮に満ちたカウンターパンチをいただいた。)  班会議二日目は、小野武年先生(富山医科薬科大学)による「大脳辺縁系における情動・記憶・免疫系の相互干渉機構の解明」で開始した。情動システム、学習・記憶システムおよび免疫システムのクロストークを、神経生理学、神経解剖学、分子遺伝学、および臨床精神医学など学際的アプローチで明らかにすることを意図した研究で、異彩を放つ内容だった。班会議を通じて、情動(感情)や動機づけの脳システムにおける位置づけについて議論された場面がいくつかあった。機械仕掛けのオモチャではなく、生物システムとしての脳研究を標榜する以上、情動(感情)や動機づけには、特別な位置が賦与されなくてはならないかも知れない。しかし、情動(感情)や動機づけといった評価系のモデリングには困難が付きまとうのも事実である。一見、噛み合わないような議論もあったが、議論の大筋は、私は,決して無視できない本質的な側面を捉えていたように思う。この点に関連して、実験サイドから、渡辺正孝先生、(都神経研)「目的志向行動における異種情報の統合に果たす前頭連合野の役割」、彦坂興秀先生(順天堂大学)、「意志決定と学習の神経機構」、川島隆太先生(東北大学)、「非侵襲的イメージング手法による脳機構の加齢変化の研究-相補的融合画像による時空間パターン解析-」など、また、理論サイドから、大森隆司先生(北海道大学)、「広域ナビゲーションにおける脳シンボル処理の発達過程のモデル化」、津田一郎先生(北海道大学)、「思考・推論の神経相関に関する理論的研究」などの発表があった。  午後の部は丹治順先生 (東北大学)による「高次運動野における運動意志の表出と行動の概念形成」で開始した。非常に美しくデザインされた実験パラダイムと見事なデータに大変な感銘を受けた。しかしその背後には、行動課題の訓練に途方もない努力が必要であったことも十分に予想できた。この他、蔵田潔先生 (弘前大学)「運動学習における大脳皮質ニューロンネットワーク内の動的情報変換機構」、木村實先生 (京都府立医科大学)「大脳基底核・大脳皮質における学習と思考の神経機構」、中原裕之先生 (理化学研究所)「計算論的立場からの神経細胞集団の情報処理の解明」などの発表があった。これらの仕事はニューロン活動記録に最新の解析技法を導入した好例と言えるだろう。  もはや実験サイドと理論サイドの境界は曖昧なものであり、このようなボーダーを設けるのはやがて無意味になるだろう。私たちはその意味でPoint of No Returnを超えたのだろうか?  最後に、「先端脳」の運営にご尽力いただいている先生方に心から感謝を申し上げます。