文部科学省特定領域研究「統合脳」5領域の発足について
丹治順(統合脳領域代表、東北大学大学院医学系研究科)
 平成16年度より、文部科学省特定領域研究として「統合脳」5領域が新たに設置されました。「統合脳」(領域代表:丹治 順)、「脳の高次機能」(領域代表:木村 實)、「神経回路機能」(領域代表:狩野方伸)、「分子脳科学」(領域代表:三品昌美)、「病態脳」(領域代表:貫名信行)の5領域です。これらの領域設置により、平成17年度から5年間、脳研究は分子からシステムに至る研究の諸分野がバランス良く研究活動を展開できることとなりました。さらに、それぞれの分野が有機的に連携し、分野を越えた統合的な研究を推進することによって脳機能の理解を目指す態勢が整いました。この意義は極めて大きいと考えます。
 脳研究の推進方策に関しては、約10年前から学術審議会及び総合科学技術会議に設置されたライフサイエンス委員会・脳研究領域委員会において長期的展望の下に検討され、結論として統合的脳研究の必要性が強調されてきました。「統合脳」5領域は、それらの委員会における審議に基づき勧告された、脳研究の目標と戦略を基本概念に据え、既設の文部科学省特定領域研究「総合脳」、「先端脳」、「神経回路」における研究分野を包含しながら統合的脳研究組織として発展させたものです。領域発足に至るまでの多くの方々のご助力とご支援、そして文部科学省のサポートに心より感謝いたします。
 言うまでもなく、脳研究の分野は極めて広汎にわたるだけでなく、研究の次元が分子、遺伝子レベルから細胞、神経回路レベル、さらにシステムレベルに及び、総合科学としての性格が顕著であるために、分野を俯瞰した研究推進が必要不可欠です。他方、21世紀の脳科学が目指す大きな目標は脳機能の解明であるといえます。脳の機能を理解するためには、異なる次元の研究を有機的に結び付け、積極的に次元を越えた機能理解を求めようとする作業が必要となります。すなわち、脳を形成する分子―細胞―回路―システム、さらに脳の病態を統合的にみた機能理解の視点に立ち、複数の階層を包含した機能発現メカニズムの研究が必要です。そのような研究の萌芽はすでに世界的に具現されはじめ、近い将来に大きな研究の潮流になる方向性が見えております。「統合脳」5領域ではこの点を重視し、脳において構造的・時間的に多次元の場で生成される反応と活動のメカニズムを、次元を越え、統一的に理解することを目指す研究を推進する意図を明確にしております。
 本特定領域研究によって脳の理解が格段に進展することが期待されます。その研究成果は広い学問領域の進歩に波及するばかりでなく、精神疾患・神経難病の治療に新展開をもたらし、さらに脳の理解は心の理解、ひいては人間理解につながることから、教育や社会に関する諸問題の解決に寄与するといった効果をもたらすことも予想されます。「統合脳」5領域では、計画研究のほか、多数の公募研究が設定されています。脳研究の諸分野で活動されている、多くの研究者の方々が奮って応募されますよう、大いに期待しております。
(研究領域は以下の5領域です。上記のように、5領域は緊密に提携して研究活動を行いますが、組織上はそれぞれ独立した領域とご理解下さい。)
「統合脳」(領域代表:丹治 順)
「脳の高次機能」(領域代表:木村 實)
「神経回路機能」(領域代表:狩野方伸)
「分子脳科学」(領域代表:三品昌美)
「病態脳」(領域代表:貫名信行)