活動報告


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「公開シンポジウム・班会議」報告

B02班「システム回路形成及びその機能の研究」報告書
柿木隆介(自然科学研究機構・生理学研究所)

 B02班は彦坂興秀先生を班長として発足したが、彦坂先生の渡米に伴い、平成13年度からは丹治順先生を班長として活動してきた。4名の計画班員と16〜21名(年度によって変動)の公募班員で構成されている。「高次脳機能の動作原理を理解する」という大きなテーマのもとに、1.知覚と意識、2.行動と意思決定、3.記憶と学習、4.情動と思考という4つのサブテーマを設けている。丹治班長は、「痴呆や精神疾患の問題解決には精神現象の理解が不可欠」、「脳の回路がシステムとしていかに機能するかを解明する先端的研究が主体となる」、しかし「脳の回路の機能的構築原理の解明を目指す研究も研究班に必要」という強い意思のもとに班の研究活動を推進してこられた。
 16年度は最終年度であるため、丹治班長は公開シンポジウムにおいて、研究班における代表的な研究成果として以下のようなものを紹介されたが、もちろん、他の研究成果も極めて質の高いものばかりであることはいうまでもない。
1.ヒトの脳活動描画による情報認知−運動発現過程の解析と病態解明(柴崎浩)
2.大脳基底核神経回路網による行動学習機構(木村實)
3.扁桃体と海馬による情動と記憶の制御機構(小野武年)
4.高次運動野における運動意思の表出機構(丹治順)
5.サル海馬体細胞による空間情報と記憶情報の連合(西条寿夫)
6.脳内痛覚認知機構の解明(柿木隆介)
7.奥行き知覚・面知覚に関与する側頭葉視覚中枢V4野の研究(藤田一郎)
8.頭頂葉における三次元空間認知のメカニズム(泰羅雅登)
9.皮質脊髄路損傷後の訓練による手指の巧緻運動の機能回復時における脳の再組織化(伊佐正)
10.側頭連合野細胞による異種感覚情報の統合(中村克樹)

 さらに丹治班長は、御自身の膨大な研究成果を以下の5つにまとめられ、わかりやすく簡潔に解説された。
1. 3領野(補足眼野、補足運動野、前補足運動野)の境界決定
  Effector-independent Activity の所在
2. 運動前野における座標変換
  上肢の視覚イメージを身体座標系で表現
3. 前頭前野の行動制御への関与
  複数のルールに従う動作選択における細胞活動、特に46野細胞が動作の目標を表現することを示す事
4. 動作企画過程における異種情報の統合
  動作ターゲットと動作部位情報の統合
5. 動作選択における数の概念形成
  頭頂葉の細胞活動に数表現を発見

 次に代表者として泰羅雅登班員が最近の研究成果について「三次元世界の脳内表現」と題して講演をおこなわれた。動物にとって三次元世界を理解することには2つの大きな目的がある。1つは、「空間に置かれている物体の三次元構造」を理解することで、これは正確な操作に必須であり「三次元形態の理解」と言い換えても良い。もう1つは、「広い空間とその中の手がかりの配置」を理解することで、これは自由な移動のためには必須の条件であり、「認知地図の脳内での形成」と言い換えても良い。三次元形態の知覚に関しては、これまでは主として心理物理学的研究と計算理論的研究が行われてきたが、泰羅班員はサルおよびヒトを対象として詳細な神経生理学的研究を行ってこられた。

図1. 実験のシェーマ。サルはチェアーに座って、モニターに表示される様々な三次元画像を注視している。タスク(GO/NoGoタスクなど)を行わせる場合もある。右下の図のようにサルの神経細胞からの記録を解析する。


 先ずサルを対象として、図1に示すような実験装置を用いモニターに映し出される様々な三次元画像に対するサルの神経細胞の活動を記録・解析された。「平面の傾き知覚」の研究のために「輪郭のある立体刺激」と「輪郭のない立体刺激」を用い、「面方位識別」、「両眼視差による面のコーディング」、「絵画的手がかり(線遠近法)による面方位の表現」、「肌理(きめ)の勾配の影響」などを解析された。さらに「曲面の傾き知覚」に関しても研究を進められた。その結果、頭頂葉後部のCIP野(caudal intraparietal area)が重要な役割を果たすことを発見された(図2)。

図2. サルにおける頭頂葉後部のCIP(caudal intraparietal area)野を示す。左上はMRI画像。左下はその模式図。右の図は2頭のサルにおいてニューロン活動が記録された部位を示す。



またヒトを対象として機能的磁気共鳴画像(fMRI)検査を行い、サルと同様にCIP野が重要な役割を果たすことを示された(図3)。

図3. 機能的磁気共鳴画像(fMRI)を用いて記録されたヒトにおけるCIP野。2種類の異なった三次元画像に対してほぼ同様の部位が活動しているのがわかる。


最後に仮想空間(virtual reality)環境でのナビゲーション課題について、コンピューターグラフィックを用いた最新の知見を紹介された。
いずれの研究も世界の最先端をいくものであり、アイディアの秀逸さと精緻な実験と解析に深い感銘を覚えた。