筑波大学消化器外科

筑波大学消化器外科

診療案内

上部消化管グループ

上部消化管グループ

  • 明石 義正(胃・十二指腸)
  • 小川 光一(食道・胃)
  • 大和田 洋平(食道・胃)

病棟担当医(レジデント)

医学部卒業後8年目までの医師が活躍しております。幅広く外科の研鑽を積んで頂く為に、半年ごとのローテーションとなっております。ご理解の程、何卒よろしくお願いいたします。

上部消化管グループは、食道がんに対する縦隔鏡手術と胃がんに対する腹腔鏡手術・ロボット支援下手術を積極的に実施しております。

食道癌

診療実績

食道癌手術症例は近年増加傾向にあります。当科では年間30-40件の食道癌手術を実地しており(図1)、県内では最も多くの手術を行なっています。 以前は、日本人の食道癌患者は扁平上皮癌が90%以上でしたが、最近は腺癌の割合が増えています(2003年~2005年に5.6%→2015年~2017年には13.5%)。 腺癌は食道の下部や、胃との境界である食道胃接合部に多く発生します。当科ではこれらの症例にも積極的に手術を行っております。

当科の特徴:「縦隔鏡下食道切除術」

食道癌ではリンパ節転移が頸部、胸部、腹部の広い範囲に広がるため、3ヶ所の手術操作を一度に行う必要があります(図2)。 胸部手術の方法には、開胸または胸腔鏡による方法(胸部アプローチ)と、縦隔鏡による方法(縦隔アプローチ)があります。 縦隔とは左右の肺の間に位置する部分のことです。食道は縦隔に存在します。その他に心臓、大血管、気管などの重要臓器があります(図3)。 開胸手術でも縦隔鏡手術でも目的とする切除範囲に違いはありません。 開胸は胸を大きく切開して直接目で見ながら行う手術、胸腔鏡および縦隔鏡は小さな傷でカメラで観察しながら鉗子と呼ばれる専用の器具(マジックハンドのものすごく精密なもの、というイメージです)で行う手術です。 縦隔鏡は左頚部に4cm程度の傷をつけて専用器具を装着し、胸に傷をつけることなく行う手術です(図4)。

縦隔鏡手術の最大の特徴は、胸部アプローチと異なり「胸を切らない・肺に触らない」ことです(図5)。 そのため喀痰の排出が容易で、「術後肺合併症(肺炎、無気肺など)の軽減」が期待でき、肺機能の低い患者さんにも施行できる可能性があり、胸部アプローチより低侵襲である、と考えています。 また胸部アプローチ手術で必要となる体位変換を行わないため手術時間の短縮が見込めます。 腹腔鏡も併用するため全体として傷が小さく、「術後の早期回復」の点で優れています。

当科では2018年に縦隔鏡下食道切除術を導入しました。現在は第一選択となっています(図6)。 2022年12月までに80名を越える患者様に本術式を行ってきました。従来の開胸手術で約15%見られた肺合併症(肺炎、無気肺)が約5%に軽減しました。

進行食道癌に対する集学的治療

ステージII以上(図7)の進行食道癌患者に対しては、術前化学療法と手術、術後補助療法を組み合わせた集学的治療を行なっております。これらの治療でも治癒困難と考えられる症例に対しては放射線療法も組み合わせることがあります。 消化器内科(腫瘍内科)、放射線腫瘍科と毎週キャンサーボードを行い、治療方針を共有して個々の患者様に最も適した治療を提供できるよう努めております。

胃癌

診療実績

当科では年間60~80件前後の胃癌手術を実施しております(図1)。近年、ピロリ菌感染率の低下、早期発見による内視鏡治療(胃カメラでの切除)の増加で全国的に胃癌手術件数は横ばいからやや減少傾向にあります。

傷が小さく身体に負担の少ない手術(低侵襲手術=腹腔鏡、ロボット)
①腹腔鏡手術

おなかを大きく切らずに小さな傷で行う腹腔鏡下胃癌手術は1991年から開始され現在では胃癌手術の約3‒4割が腹腔鏡で実施されています。傷が小さく手術後早期の回復に優れること、高精細カメラによる拡大観察により出血量を少なくできること(図2)が利点ですが、技術的な難易度が高いことが難点として挙げられます。

当科では腹腔鏡手術に習熟したスタッフ(日本内視鏡外科学会技術認定医)が赴任してから腹腔鏡手術を導入し、現在は比較的早い臨床病期(ステージ)Ⅰ/Ⅱの患者さんを中心に腹腔鏡手術を実施しております(図3)。

②ロボット支援下手術

腹腔鏡手術の難点(棒のような道具(鉗子)による可動域制限、二次元モニターによる奥行きの分かりにくさ)を克服するために開発されたのが手術支援ロボットで泌尿器科領域の前立腺癌手術を中心に日本全国で手術件数が増加しています(図4)。

胃癌に対するロボット支援下手術は2016年から実施された先進医療により手術関連合併症を低減する可能性が示され、2018年度から保険収載され全国的に増加傾向にあります。当科でも2019年5月よりロボット支援下手術を導入し、より安全で身体への負担の少ない胃癌手術を実施しております。

進行した胃癌に対する集学的治療

早期発見例の増加により60%以上の胃癌は治るようになりましたが、転移を伴う進行癌に対する治療成績はまだ十分ではありません。このような進行胃癌を手術治療のみで治癒することは極めて困難であり、転移に対する全身化学療法(抗がん剤治療)と外科治療をうまく組み合わせて治療を行うことが重要です。
当科ではこのような進行した胃癌の患者さんに対して最適な治療を提供できるように、抗がん剤治療の専門家である腫瘍内科医(がん薬物療法専門医)と緊密な連携を取りながら診療を実施しております。

GIST、胃・十二指腸粘膜下腫瘍

診療実績

粘膜下腫瘍とは胃癌などの粘膜から発生する病気と異なり、粘膜の下にある筋肉・血管・脂肪などから発生する腫瘍の総称で、外科治療の主な対象はGIST(ジスト:消化管間質腫瘍)と呼ばれる疾患です。GISTを含む粘膜下腫瘍に対する外科手術では胃癌のようなリンパ節切除(郭清)は不要で、腫瘍の取り残しをしないこと(切除断端陰性)、可能な限り正常な臓器を温存することが必要です。当科では2014年より粘膜下腫瘍に対して必要最小限の腫瘍切除で臓器機能を温存した低侵襲手術胃内手術を実施し切除件数が増加しています(図5)。

粘膜下腫瘍に対する患者個別のテーラーメイド手術

粘膜下腫瘍に対する低侵襲手術には様々な術式が考案されています。胃の外側にある腫瘍は通常の腹腔鏡手術を行いますが、胃の内側にある腫瘍を腹腔鏡だけで切除すると臓器の欠損が大きくなり食物の通過に影響します。そこで、胃カメラにより腫瘍周囲の粘膜を切除し、腫瘍を含めた最小限の胃壁を腹腔鏡で切除する腹腔鏡内視鏡合同手術(LECS: laparoscopy endoscopy cooperative surgery)、胃の出入り口(噴門、幽門)にかかる腫瘍に対しては胃の内側に腹腔鏡手術の道具を入れて腫瘍のみを切除する胃内手術(経皮内視鏡下胃内手術)と腫瘍の位置や大きさに応じた患者個別のテーラーメイド手術を実施しています。