筑波大学消化器外科

筑波大学消化器外科

研究紹介

がん基礎研究グループ

がん基礎研究グループ

夢の実現のために、我々消化器外科医は机に向かい、試験管を振り、メスを握ります。
外科手術をやりながらの実験は、時として試練となりますが、いつかその努力が患者さんの笑顔に繋がることを信じています。

主に取り組んでいる研究紹介

がん細胞表面糖鎖をターゲットにしたがん治療の創薬研究

がんの一部は完全治癒することも可能となった時代において、膵がんをはじめとする消化器がんの多くは依然として満足のいく治療成績とは言えません。大腸がんなどは近年急速に治療が進み、従来は切除不能とされてきた患者さんが、手術が可能となったり、長期間生存できるチャンスも出てきました。これには外科治療の進歩ももちろんですが、抗がん剤をはじめとする薬の開発が非常に重要であります。
我々は臨床検体を使用できるメリットを最大限に活用し、世界最先端の糖鎖解析技術をもつ産業技術総合研究所創薬基盤部門と共同で、糖結合タンパク(レクチン)を使用したがん細胞表面糖鎖標的治療の研究を行っています。

がん細胞を含むすべての細胞の表面は「糖鎖」という衣で覆われています。

A. 我々は糖鎖解析技術を用いて、膵がん細胞の表面に発現する糖鎖構造を同定しました。

B. LDC(レクチンー薬剤複合体)は従来のADC(抗体―薬剤複合体)と比較して約1000倍近い抗癌活性を持つことを証明しました。
IC50=1fm/mlオーダー。

マウスへ1µg×4回(50µg/kg)の投与で腹膜播種をほぼ完全に消失させた

現在、本研究はAMED(日本臨床医学研究開発機構)の予算を得て、大型動物での研究を行っております。
特許出願(PCT/JP2016/079577、米国US15/759288、欧州16853603.5)
名称:がん細胞の検出方法、がん細胞内に物質を導入するための試薬、及びがん治療用組成物

がんの組織形態を模倣したオルガノイドの作成

上記の創薬研究や、診断技術の研究開発には、その効果や有効性を証明するため実験で使用する細胞や動物モデルが非常に重要です。研究の初めから患者さんと一緒に開発ができることは通常あり得ません。また、近年は動物保護の観点からも、実験に使用する動物は極力少なくするように決められています。しかしそうとは言え、実際の患者さんとあまりにかけ離れた実験モデル(マウスや細胞など)使用するのは、有効性の検証としては適切ではなく、限りなく患者さんに近いモデルを使用することが望まれます。
我々は実際の患者さんから採取した腫瘍や正常部位を用いて、動物等の利用を極力少なくし、かつ、実際の癌(悪性腫瘍)や正常組織に近い形態をとるモデル(オルガノイド)の作成取り組んでいます。 作成したオルガノイドを利用して、薬効試験や創薬研究への応用が見込まれています。

糖鎖解析技術を応用した消化器癌診断法の開発
新たながん由来のマーカー(糖タンパク質)の探索研究

医療が進んだ現在でも、手術(外科的切除)は癌の治療の根幹となっています。しかし、残念ながらすべての患者さんが手術の恩恵を受けられる訳ではありません。癌の多くは、無症状のまま進行するため、診断された時点で他臓器に転移していた場合は、基本的には外科治療の適応からは外れてしまいます。我々はそういった患者さんを一人でも少なくするべく、早期診断できるシステム、キットの作成を行っています。

抗体とレクチンを使用した、膵臓癌由来の糖タンパク質を検出するきっとを開発しています。実際の膵臓癌患者さんの血清を用いた実験で、膵臓癌由来の物質の検出に成功しています。
対称となるPBSと比較して、術前に採取した患者血清がいずれも高い値となり、手術後1日目(1POD)、7日目(7POD)で低下していることがわかります。
特許申請済

新たながん由来のマーカー(糖タンパク質)の探索研究

Exosome(エクソソーム)とは:あらゆる細胞から分泌される直径50nm~150nm程度の膜小胞のことで、様々なタンパク質や脂質,DNA,RNAを含んでいます。血液や尿、唾液などの体液中に存在し、離れた細胞や組織間の情報伝達を担うツールとして着目されています。がんにおいても、増殖や浸潤、転移などのメカニズムに関与することがわかっており、がんに特異的なエクソソーム中のmiRNAやタンパク質の存在が報告されています。
エクソソームも、細胞と同様に「糖鎖」に覆われていますが,その生理機能には不明な点が多く、我々はエクソソームの表面糖鎖修飾に着目して研究を行っています。

がん細胞の培養上清中やがん患者さんの体液中(血液や腹水など)に存在するエクソソームの糖鎖を解析することで,その機能を解明し,がん診断へ応用することを目的としています。
我々はこれまでに糖鎖解析技術により,ヒト膵臓がん細胞株の細胞培養上清より精製したエクソソームの糖鎖構造と,細胞自体の糖鎖構造がほぼ同様であることを解明しました